喫煙のがんを始めとする健康に関する情報(参考文献の紹介)
日本癌学会喫煙対策委員会では、新型たばこを含め、喫煙とがんを始めとする健康にまつわる国内外の様々な研究結果について、注目すべき参考文献を定期的に1~2編ずつ紹介していく取り組みを始めました。ここに紹介する研究論文は、がん予防・がん医療に対するインパクトの強さ、社会的インパクトをはじめ、最新の健康・医療にまつわるトピックスなども参考に選択しています。
【参考文献33】受動喫煙と肺がんの関連をはじめて示した論文
タイトル:Non-smoking wives of heavy smokers have a higher risk of lung cancer: a study from Japan
著 者:Takeshi Hirayama
雑誌名:BMJ 282, 183-185.1981
リンク:https://www.bmj.com/content/282/6259/183
【文献の紹介文】
日本の29保健所を対象に行われた研究で、40歳以上の非喫煙者の妻91,540人を14年間(1966-79年)追跡調査し、夫の喫煙習慣に応じて肺がんの死亡率を評価した。ヘビースモーカーの妻は肺がん発症リスクが高く、量反応関係が観察された。夫の喫煙と妻の肺がん発症リスクとの関係は、夫の年齢と職業別に分析しても同様のパターンを示した。夫の年齢が40-59歳の農家では、リスクが特に大きかった。夫の喫煙習慣は、胃がん、子宮頸がん、虚血性心疾患など他の病気による妻の死亡リスクには影響しなかった。肺気腫と喘息の発症リスクは、ヘビースモーカーの非喫煙者の妻で高かったが、その影響は統計的に有意でなかった。夫の飲酒習慣は、肺がんを含め、妻の死因には全く影響しない。
これらの結果は、肺がんの原因の一つとして受動喫煙または間接喫煙が重要であることを示している。また、自分自身が非喫煙者であるにもかかわらず、なぜ多くの女性が肺がんを発症するのかという長年の謎も説明できる。これらの結果はまた、喫煙者と非喫煙者を比較して肺がん発症の相対的リスクを評価することに疑問を投げかける。
【紹介者コメント】
受動喫煙と肺がんの関係をはじめて示した論文。わが国の研究で世界に大きな衝撃を与えた。たばこが喫煙者本人だけでなく、まわりの人の健康に被害を与えることは、たばこの健康被害を警告するだけでは対策として不十分であり、受動喫煙対策をはじめとするたばこ規制を法的拘束力を持って導入する必要性を認識させることになった。それゆえにたばこ産業からの批判や妨害活動にさらされることになったが、当該研究の検証やその後の科学的根拠の蓄積により、「受動喫煙は人に肺がんを引きおこすと結論づける十分な証拠がある」と判断される状況に至っている。
担当委員:平野 公康 (国立がん研究センター がん対策研究所 たばこ政策情報室)
過去の参考文献
- 参考文献32:加熱式タバコは禁煙する助けにはならない
- 参考文献31:禁煙が早ければ 肺癌の生存期間が延長
- 参考文献30:受動喫煙の誤分類問題に終止符を打った論文
- 参考文献29:喫煙はDNAのメチル化を通じてがんをはじめとする様々な病気のリスクを上げる
- 参考文献28:ヒトのがんに見られる喫煙による変異シグネチャー
- 参考文献27:頭頸部がん診断後の禁煙は治療効果を改善し長期生存をもたらす
- 参考文献26:日本のたばこ対策の進捗状況に応じた喫煙率・死亡率の予測
- 参考文献25
- 参考文献24
- 参考文献23
- 参考文献22
- 参考文献21
- 参考文献20
- 参考文献19
- 参考文献18:肺がん罹患後の禁煙による生存率改善は、禁煙のがん進行抑制効果による
- 参考文献17:喫煙はがん以外にも多くの疾患のリスクと関連している
- 参考文献16:日本における喫煙による年間死亡者数は女性37,000人、男性162,000人
- 参考文献15:喫煙により頭頸部がんのリスクは10倍に上がる
- 参考文献14:少量の喫煙でも頭頸部がんのリスクは上昇する
- 参考文献13:加熱式たばこの利用により血液細胞のDNAのメチル化パターンが変わる
- 参考文献12:喫煙は死亡率を高め、禁煙はそのリスクを下げる:英国医師の追跡調査
- 参考文献11:がん診断前後に禁煙した人は、継続喫煙した人よりも二回目のがん罹患リスクが低い
- 参考文献10
2022年2月にCancer Scienceに掲載されたJCA会員に実施した喫煙状況調査に関するレポート - 参考文献9:加熱式たばこ、紙巻きタバコを両方吸う人は、呼吸機能の低下が多い
- 参考文献8:喫煙はがん、呼吸器疾患等による死亡の大きな原因:アジア人100万人追跡調査
- 参考文献7:ニコチン入り電子タバコはニコチン置換療法よりも禁煙率が高かった
- 参考文献6:日本人のがんによる死亡の原因の24.1%がタバコである
- 参考文献5:喫煙で気管支の細胞における遺伝子変異の数が増加する
- 参考文献4:肺腺がんリスクは受動喫煙で増加する:日本人非喫煙女性の追跡研究
- 参考文献3:加齢による食道粘膜上皮の遺伝子変異は、大量喫煙・飲酒で更に増加する
- 参考文献2:がんと診断された後の禁煙の臨床的な意義を再考せよ
- 参考文献1:肺癌患者におけるCOVID-19感染で、喫煙量が多いと死亡率が高まる