喫煙のがんを始めとする健康に関する情報(参考文献の紹介)|学会概要|日本癌学会

日本癌学会

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喫煙のがんを始めとする健康に関する情報(参考文献の紹介)

最終更新日:2023年11月22日 

日本癌学会喫煙対策委員会では、新型たばこを含め、喫煙とがんを始めとする健康にまつわる国内外の様々な研究結果について、注目すべき参考文献を定期的に1~2編ずつ紹介していく取り組みを始めました。ここに紹介する研究論文は、がん予防・がん医療に対するインパクトの強さ、社会的インパクトをはじめ、最新の健康・医療にまつわるトピックスなども参考に選択しています。

【参考文献25】

タイトル:Genome-wide meta-analyses identify multiple loci associated with smoking behavior.
著 者:Tobaccco and Genetics Consortium
雑誌名:Nat Genet誌 2010 May;42(5):441-7.
            doi: 10.1038/ng.571. Epub 2010 Apr 25.
Pubmedリンク:https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/20418890/

【文献の紹介文】

喫煙行動に、遺伝子が関与しているか?という点に関して西洋人を対象にした巨大共同研究において検証した研究です。約74000人のTobacco and Genetics Consortiumという研究の対象者に対して、遺伝子を遺伝子多型アレイという1度に大量の遺伝子多型(DNAの配列の個人差)を調べる方法で検討し、喫煙に関連する遺伝子多型を探しました。15個の候補となる遺伝子多型が見つかり、それらを14万人を超える別の集団で再現性を検討しました。3つの遺伝子多型が、一日喫煙本数と関連を示しました。その代表となるのがCHRNA3というニコチン受容体を形成する物質を作る遺伝子の上にある遺伝子多型でした。ただし、その効果は、最大で一日辺り2本増やす、というものでした。喫煙開始に関連する遺伝子多型も8つ見つかり、その最も強いものはBDNF遺伝子上の遺伝子多型で、6%喫煙開始する率を上げる、というものでした。

【紹介者コメント】

喫煙はがんと最も関連がある生活習慣です。この喫煙習慣に個人の意志ではコントロール出来ない側面があるかどうか、という興味深い研究です。実際に関連する遺伝子多型がいくつか見つかり、喫煙行動の背景に遺伝的な素因がある、という事が分かりました。ニコチン受容体と関わる遺伝子などは、いかにも、という事で一研究者として納得させられます。その一方で、それらの影響力は、思ったよりも随分と小さなものであったと言わざるを得ません。この研究は欧米人におけるものですが、日本人でも同様の検討がなされ、あまり変わらない結果でした。喫煙の背景メカニズムにこれらの遺伝子多型、あるいは遺伝子多型が存在する遺伝子が関っている、というのは純粋に科学的には興味深い点ではあるもの。では、この結果をもって、喫煙行動は遺伝子で決まっている、と言えるかはかなり微妙と言わざるを得ません。喫煙行動に関しては、遺伝子の影響はそれほど大きくなく、個々人の意思で決まっている、という解釈をするのが妥当と考えます。

担当委員:松尾 恵太郎 (愛知県がんセンター研究所 がん予防研究分野)

過去の参考文献

  • 参考文献24
  • 参考文献23
  • 参考文献22
  • 参考文献21
  • 参考文献20
  • 参考文献19
  • 参考文献18:肺がん罹患後の禁煙による生存率改善は、禁煙のがん進行抑制効果による
  • 参考文献17:喫煙はがん以外にも多くの疾患のリスクと関連している
  • 参考文献16:日本における喫煙による年間死亡者数は女性37,000人、男性162,000人
  • 参考文献15:喫煙により頭頸部がんのリスクは10倍に上がる
  • 参考文献14:少量の喫煙でも頭頸部がんのリスクは上昇する
  • 参考文献13:加熱式たばこの利用により血液細胞のDNAのメチル化パターンが変わる
  • 参考文献12:喫煙は死亡率を高め、禁煙はそのリスクを下げる:英国医師の追跡調査
  • 参考文献11:がん診断前後に禁煙した人は、継続喫煙した人よりも二回目のがん罹患リスクが低い
  • 参考文献10
    2022年2月にCancer Scienceに掲載されたJCA会員に実施した喫煙状況調査に関するレポート
  • 参考文献9:加熱式たばこ、紙巻きタバコを両方吸う人は、呼吸機能の低下が多い
  • 参考文献8:喫煙はがん、呼吸器疾患等による死亡の大きな原因:アジア人100万人追跡調査
  • 参考文献7:ニコチン入り電子タバコはニコチン置換療法よりも禁煙率が高かった
  • 参考文献6:日本人のがんによる死亡の原因の24.1%がタバコである
  • 参考文献5:喫煙で気管支の細胞における遺伝子変異の数が増加する
  • 参考文献4:肺腺がんリスクは受動喫煙で増加する:日本人非喫煙女性の追跡研究
  • 参考文献3:加齢による食道粘膜上皮の遺伝子変異は、大量喫煙・飲酒で更に増加する
  • 参考文献2:がんと診断された後の禁煙の臨床的な意義を再考せよ
  • 参考文献1:肺癌患者におけるCOVID-19感染で、喫煙量が多いと死亡率が高まる
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