歴代受賞者一覧
第29回 2024年(令和6年)
赤司 浩一 (九州大学病態修復内科(第一内科))
「ヒト造血器がん幹細胞の成立・維持機構の解明」
赤司浩一博士は、正常造血幹細胞の制御機構の研究で多くの成果を挙げ、造血幹細胞分化モ
デルの基盤を構築した。この理解を基に、造血幹細胞における遺伝子異常の蓄積やクローン
造血に起因した、急性骨髄性白血病(AML)、慢性リンパ性白血病(CLL)の発症機構を解
明し、普遍的な造血器腫瘍発生機構の概念を樹立した。さらに、白血病幹細胞を標的とした
新規治療法開発を推進し、我が国の造血器腫瘍の診断治療の発展に大きく貢献した。
第28回 2023年(令和5年)
大津 敦(国立がん研究センター 東病院)
「新規がん医薬品実用化と精密医療開発に資する研究」
大津敦博士は、消化器がんを中心とした臨床開発をけん引し、多数の薬物療法の開発と新規標準治療の確立に大きな貢献を果たした。また、産学連携の全国がんゲノムスクリーニングプラットフォーム(SCRUM-Japan)を創設し、基礎・TR研究と連動した強力な推進を行い、わが国のゲノム・精密医療の開発研究全体を世界レベルに引き上げた。まさに、基礎・TR・臨床のすべてに亘る領域の研究者に希望と活躍の場を与える業績を挙げられた。
第27回 2022年(令和4年)
落合 淳志(東京理科大学 生命科学研究所/国立研究開発法人 国立がん研究センター)
「がん微小環境の基礎・応用研究と、ゲノム医療実装化のための病理診断標準化に関する研究」
落合淳志博士は、がん細胞の進展における細胞接着分子異常やがん微小環境の重要性等の分子基盤研究をもとに、胃癌HER2コンパニオン診断を行うためのアルゴリズム確立、領域横断的癌取り扱い規約、WHO組織分類の作成に参加、病理診断の標準化を日本はもとより世界的に行うとともに、我が国のゲノム医療推進のための医療体制における病理診断を整備し、遺伝子パネル検査の実装やTR研究に必要な病理体制確立に貢献した。
第26回 2021年(令和3年)
中釜 斉(国立がん研究センター 理事長)
「ヒト発がん要因の同定と多段階発がんの本態解明に関する研究」
中釜斉博士は、環境要因によるヒト消化器発がんの分子機構について動物モデルを用いた研究で多くの成果を挙げた。種々の発がん物質などのDNA損傷物質への暴露が、細胞老化や細胞死誘導に重要な役割を果たすmiR-34a等のマイクロRNAの発現を誘導することを世界に先駆けて報告し、マイクロRNAの機能複合体であるRISCの構成因子SND1が大腸発がんの初期課程に寄与することを明らかにした。さらに中釜博士は日本癌学会理事長として若手や女性研究者の学会参画を積極的に促すとともに、学会の法人化を実現するなど日本癌学会の発展に大きく貢献した。
第25回 2020年(令和2年)
河上 裕(国際医療福祉大学医学部長・免疫学教授、慶應義塾大学名誉教授、医学部先端医科学研究所 細胞情報研究部門・特任教授)
「ヒトがん免疫応答の解明によるがん免疫療法の開発」
河上裕教授は悪性黒色腫に対し治療効果を示す腫瘍浸潤リンパ球(TIL)が認識するヒト腫瘍抗原の単離に世界に先駆けて成功した。その後DNAミスセンス変異由来ネオ抗原など多数のカテゴリーを異にするがん抗原の同定を通してT細胞によるヒト腫瘍抗原認識機構の実体解明に大きく貢献し、複合的がん免疫療法の開発基盤を築いた。また、河上教授は日本癌学会利益相反委員会初代委員長として、学会の利益相反管理体制を構築した。
第24回 2019年(令和元年)
森 正樹(九州大学大学院 消化器・総合外科(第二外科) 主幹教授)
森正樹氏は長年外科医として活躍し、難治性消化器がんをがん幹細胞の視点から研究してきた。肝臓がんにおいてCD13が優れたがん幹細胞マーカーであることを報告し、新規ドラッグデリバリーシステムの開発と連動して実臨床への道を開いた。また、3種類のマイクロRNAでiPS細胞を作製することが可能であること、そのマイクロRNAの導入によりがんの冬眠療法が可能であることを示した。これらの成果は難治がん治療に新しい手法を提示した卓越した成果である。
第23回 2018年(平成30年)
樋野 興夫(順天堂大学医学部 病理・腫瘍学 教授)
樋野興夫博士は、B型肝炎ウイルスの発がん機構や遺伝性腎癌ラットの原因遺伝子の同定など、病理学に立脚した優れた研究業績を挙げられました。また、アスベストによる中皮腫を環境発がんの深刻な問題と捉えて専門外来を開設し、ERCによる診断法を開発するなど、基礎研究の臨床応用にも取り組まれました。さらに、がんを人間の営みとして捉えるがん哲学を主唱し、外来を通じて支持を集めて居られます。日本癌学会では理事を4期務め、その発展に貢献されています。
第22回 2017年(平成29年)
直江 知樹(国立病院機構名古屋医療センター 院長)
直江知樹博士は、ヒト白血病における分子病態の解明と新規治療法の開発に取り組んでこられました。特に分子標的治療の開発やFLT3変異の意義においては注目される業績を挙げられました。また日本成人白血病研究グループ(JALSG)を12年間に亘って主導し、臨床エビデンスを日本から発信してこられました。日本癌学会においては副理事長や第74回学術総会会長を務めるなど、学会の発展に多大な貢献をされてこられました。
第21回 2016年(平成28年)
佐藤 昇志(札幌医科大学 名誉教授)
佐藤昇志博士は永年に亘り種々の方法論を駆使して60種以上のヒト腫瘍特異抗原を同定した。その多くは既に臨床試験に入っている。これらの先駆的かつ独創的研究を通じて、種々の問題点を指摘し、がん免疫機序の解析、研究手法を開発し、この方面の研究に益すること極めて大であった。佐藤博士自身は、既に種々のがんペプチドワクチン、ヒトがん幹細胞ワクチンなどを開発し、その効果を増強する機構を発見し、ヒトがん免疫治療の実用化に貢献している。
第20回 2015年(平成27年)
今井 浩三(東京大学医科学研究所抗体ワクチン開発分野 特任教授)
今井浩三博士は、世界に先駆けてがん関連標的分子を解明するための基礎研究から、基礎研究で明らかになった標的治療の臨床応用を目指すトランスレーショナル研究(TR)に積極的に取り組み、単一の大学のみならず多施設におけるTRプロジェクトを推進することで、我が国のTR研究の代表者としてTR研究を牽引されてきました。また、今井博士は日本癌学会への貢献として日本癌学会の副理事長、第64回学術会長、第7回日米癌合同会議世話人、日本がん治療認定医機構の立ち上げと同理事長を勤められ、がん研究の社会還元に対して高い貢献をなされてきました。
第19回 2014年(平成26年)
田島 和雄(三重大学医学部 客員教授)
田島和雄博士は日本をはじめ、世界のモンゴロイド集団における成人T細胞白血病・リンパ腫の原因ウイルスのHTLV-1の分布を調べ、特定の地域、民族に感染者が限定していること、さらに自然感染経路として母児間、夫婦間の家族内感染を明らかにし、感染防止の道を拓いた。また、中国、韓国との共同研究により、大腸がん、乳がんの危険因子を比較し、「民族疫学」の概念を確立した。田島博士は日本癌学会でも理事、学術会長を務め、国際的にはがんの疫学・予防研究領域で若手研究者を指導してきた。
第18回 2013年(平成25年)
門田 守人(公益財団法人がん研有明病院 院長)
門田守人先生は、消化器癌治療成績向上のために、PCR法を用いた微少転移の診断法を確立し、術後再発との相関を証明されました。 さらに、消化器癌切除標本を用いて、術後再発予測に関する、全遺伝子搭載型のチップを開発いたしました。
また、社会的貢献として、①「大阪宣言2010」(第69回日本癌学会会長)、②「社会と共に進化する外科学」(第107回日本外科学会会長)③日本癌治療学会の近代化(理事長)などをおこなうともに、2007年よりがん対策推進協議会委員(2011年同協議会会長)をつとめられました。
第17回 2012年(平成24年)
菊地 浩吉(北海道対がん協会 会長/札幌医科大学 名誉教授)
菊地浩吉先生は動物自家がん系の研究を基礎に、分子免疫学、細胞工学等を駆使して、がん患者での自己がん細胞免疫応答成立を鮮やかに証明されました。これらの研究成果は今日では教科書的事実と認められ、現在のがん免疫臨床研究、創薬化の大きな流れの基盤をなし、わが国がん研究、がん医療進展における意義はきわめて大きいものといえます。
第16回 2011年(平成23年)
本年度は受賞者選出を見送ることに致しました。
第15回 2010年(平成22年)
珠玖 洋(三重大学医学部 第二内科 教授)
がん免疫の基盤的研究とその臨床応用
Basic Research of Cancer Immunity and its Clinical Application
受賞理由
珠玖先生は、今や教科書的事実となっている、キラーT細胞がヘルパーT細胞と異なった機能を持つT細胞であること、またキラーT細胞が、今日CD8として知られているマーカーを有していることを初めて報告しました。さらに化学発癌肉腫の腫瘍拒絶抗原をコードする遺伝子を単離するなど、癌に対する免疫応答の多くの先駆的業績をあげて来ました。これらの基礎的研究の知見を臨床に応用し、キラーT細胞とヘルパーT細胞の両者を活性化できる癌ワクチンの開発や、癌特異的T細胞レセプター導入リンパ球による細胞療法の開発などを行い、効果的な癌免疫療法の実用化に大きく貢献されました。
第14回 2009年(平成21年)
北島 政樹(国際福祉大学附属三田病院 院長 慶應義塾大学医学部 名誉教授)
北島政樹先生は、長年にわたり癌の臨床を目指した基礎研究ならびに先端的な臨床研究に取りくみ、いち早くロボット工学を用いた先端的手術技法の導入あるいはセンチネルリンパ節の治療応用などに尽力されました。また、研究マインドを有する多数の優秀な腫瘍外科医を輩出される一方、日本癌学会に対しても、理事として高い見識を示され、我国の癌研究特に臨床面において、卓越した業績を挙げられました。
第13回 2008年(平成20年)
梅垣洋一郎(放射線医学総合研究所 顧問)
熱心な放射線医師として、術中照射法や高精度高濃度治療法を開発し、多くの患者を救った。またコンピューターの診断・治療への導入やポジトロン核医学等、現在の最先端技術に直接結びつく数多くの先駆的、独創的研究を行い、がんの放射線診断と治療の発展に多大な貢献をなした。特に、強い指導力を発揮して放医研に実現した炭素線治療は大きな成果を挙げ、日本をこの分野における世界の牽引車にした。
第12回 2007年(平成19年)
垣添 忠生(国立がんセンター 名誉総長 日本対がん協会 会長)
ラットの単離膀胱上皮のコンカナバリンAによる凝集性を指標として、膀胱発がん物質、発がん促進物質の短期検索法を開発した。また、尿路移行上皮がんの多発性に関する臨床研究を行うとともに、浸潤性膀胱がんに対する膀胱全摘後、自然排尿が可能な新しい術式を開発した。さらに、厚生労働省の委員会等の役職及び日本対がん協会の理事、会長を務め、我が国のがん対策の推進に尽力した。
第11回 2006年(平成18年)
日野 茂男(鳥取大学医学部 ウィルス学 教授)
疫学的方法でHTLV-1の母子感染の様式と実態を見事に明らかにした。そしてその結果を予防に生かすために、長崎県の衛生部、県下の小児科医、婦人科医、国立病院、長崎大等の協力体制を作りあげ、HTLV-1の母子感染防止介入試験を実施した。15年以上の長期に渡るこの仕事は、キャリア由来の児の90%の感染を阻止し、推定で約50人の人命を救った。
第10回 2005年(平成17年)
下山 正徳(国立がんセンター 中央病院 客員研究員)
質の高いがん臨床試験を実施する日本臨床腫瘍研究グループ(JCOG)の実現に尽力し、各種の臓器グループ、委員会組織、統計センターから構成されるグループ共同研究機構のJCOGを我が国で初めて確立した。がん化学療法を中心とした室の高い臨床試験が可能となり、自らもリンパ系腫瘍に対する優れた多剤併用療法を確立し、治癒率向上に貢献した。更に、国際的に広く利用されている成人T細胞白血病・リンパ腫の病型診断基準と治療指針を作成した。
第9回 2004年(平成16年)
久道 茂(東北大学名誉教授 宮城県病院事業管理者)
日本のがん検診を科学的根拠にもとづくものとするため、世界で初めての大腸がん検診の症例・対照研究によって。大腸がん検診の有効性を明らかにし、その他各種のがん検診の疫学研究によりその有効性の有無とその大きさを証明した。更に、大規模集団を対象にした医療費と検診に関する研究でがん検診が経済的にも有意義であることを証明している。
第8回 2003年(平成15年)
北川 知行(財)癌研究会癌研究所 所長)
肝癌発生の初期段階に発生するEnzyme-altered-island(EAI)の同定により、生体内での発癌の多段階プロセスを実証して肝癌の多段階発癌モデルを確立し、さらにその概念をヒトの癌発生・進展や自然史の考察に応用して「天寿がん」構想を提唱した。
第7回 2002年(平成14年)
田原 栄一(広島大学医学部病理学第一講座 名誉教授)
財)放射線影響研究所 常務理事 ヒト消化器がんの分子病理学的研究において多大なる業績を挙げ、更にその結果をがんの分子診断学として発展させた。
第6回 2001年(平成13年)
高久 史麿(自治医科大学 学長)
エリスロポエチンやG-CSFなどの造血因子の基礎的及び臨床的研究に優れた業績を挙げ、又、広く癌研究の発展に寄与した。
第5回 2000年(平成12年)
青木 國雄(愛知県がんセンター 名誉総長)
大規模コホート研究を組織するなど日本のがん疫学の振興につとめ、又、UICC活動などを通じて国際的にがん疫学とがん予防に貢献した。
第4回 1999年(平成11年)
高月 清(財)田園興風会医学研究所北野病院 院長)
成人T細胞白血病の臨床概念を確立し、またその診断と治療に多大な貢献をなした。
第3回 1998年(平成10年)
市川平三郎(国立がんセンター 名誉院長)
胃の二重X線造影法の開発と普及を通じて優れた業績を挙げ、広く癌研究と癌治療の発展に寄与した。
第2回 1997年(平成9年)
西 満正(財)癌研究会附属病院 名誉院長)
胃がんの進展様式と適正手術の研究においてまた常に患者とともにある医師としての実践を通じ優れた業績を挙げ、広く癌研究と癌治療の発展に寄与した。
第1回 1996年(平成8年)
和田 武雄(札幌医科大学 名誉教授)
消化管器系癌の病態整理と治療の研究においてすぐれた業績を挙げ、また広く癌研究の発展に寄与した。