新型コロナウイルス感染症とがん診療について:医療従事者向け Q&A
2021年2月2日 更新
新型コロナウイルス感染症とがん診療について:医療従事者向け Q&A【1】
新型コロナウイルス感染症とがん診療について:医療従事者向け Q&A【2】
新型コロナウイルス感染症とがん診療について:医療従事者向け Q&A【3】
新型コロナウイルス感染症とがん診療について:医療従事者向け Q&A【4】
はじめに
がん関連3学会(日本癌学会、日本癌治療学会、日本臨床腫瘍学会)合同連携委員会の、新型コロナウイルス(COVID-19)対策ワーキンググループ(WG)が、最新の知見を参考に医療従事者向けに情報を発信しております。まだまだエビデンスが乏しいところもありますが、日々の臨床の参考にしていただけると幸いです。尚、新たな知見、情報をもとに適宜更新されます。
- 1.疫学的なこと(がん患者さんのリスクなど)
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1)がん患者がCOVID-19になると重症化しやすいですか?
がん特異的症例死亡率に関する現在入手可能な最も包括的なデータは、2020 年 2 月 28 日に発表された”Report of the WHO-China Joint Mission on Coronavirus Disease 2019 (COVID-19)”1)が挙げられます。 この報告書によると、中国では、2020 年 2 月 20 日時点で、がんを併存疾患とし、検査室で感染が確認された患者の症例死亡率は 7.6%と報告しています。これは、全体3.8%、併存疾患なし1.4%と比較して高く、心血管疾患13.2%、糖尿病9.2%、高血圧8.4%、慢性呼吸器疾患8.0%に匹敵します。
死亡率同様、人工呼吸器使用や集中治療室利用などのCOVID-19の増悪イベントは、非がん者と比べ、がんサバイバー、がん患者の何れでも高い事が報告されています2)。
1) https://www.who.int/publications/i/item/report-of-the-who-china-joint-mission-on-coronavirus-disease-2019-(covid-19)
http://www.jibika.or.jp/members/information/info_corona_0409_01.pdf
2) https://www.thelancet.com/pdfs/journals/lanonc/PIIS1470-2045(20)30096-6.pdf
- 2.免疫とウイルス感染との関わり
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1)どのような治療で免疫が落ちますか?
がん患者でも自然免疫は維持されていますが、骨髄抑制をもたらす化学療法などがウイルス感染、増悪化のリスクを増大します。実際の診療では、主治医が各治療薬の有益性と不利益に加え、流行時には来院によるSARS-CoV-2感染リスクも考慮し、病状の落ち着いている患者には治療の中断や受診間隔の延期も検討するべきと考えられます。
ASCO:
https://www.asco.org/sites/new-www.asco.org/files/content-files/2020-ASCO-Guide-Cancer-COVID19.pdf
ESMO:
https://www.esmo.org/for-patients/patient-guides/cancer-care-during-the-covid-19-pandemic
NHS England:
https://www.england.nhs.uk/coronavirus/publication/specialty-guides/
日本臨床腫瘍学会:
https://www.jsmo.or.jp/news/coronavirus-information_medical.html
[解説]
ウイルスに対する免疫には全ての細胞が持っている自然免疫といわゆる免疫細胞による獲得免疫の2種類があります。このうち自然免疫についてはがん患者でもあまり落ちないと考えられています。これまでに、がん患者におけるリスク評価に関して500を超える論文が発表されています。がん患者はSARS-CoV-2に感染しやすいこと、より重症化しやすくCOVID-19による死亡率も高いことが示されています。いずれの報告も症例数が少なく、層別化は十分ではありませんが、Albert Einstein College of Medicineのがん患者218例の予後解析がCancer Discoveryに報告されています。全体の死亡率は28%(61/218)と、同地域の非がん患者(6%, 6182/104185)と比べて有意に高く、特に肺がん(55%, 6/11)と血液悪性腫瘍患者(37%, 20/54)で高いことが報告されています。また、リスクが高いのは単に免疫力だけでなく、肺がんで喫煙者が多く喫煙によるACE2の発現増加なども原因として推定されています。逆に前立腺がんなどで抗アンドロジェン療法を受けている患者ではTMPRSS2の発現抑制などを介して、感染や重症化リスクが下がる可能性も示唆されています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32357994/
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33049215/2)重症化に免疫は関与しているのでしょうか?
ウイルス感染を受けた細胞から分泌されたインターフェロンなどにより免疫細胞が活性化し様々なサイトカインを介して獲得免疫が構築されます。重症化した若年者などからウイルスRNAを認識する自然免疫系の受容体Toll-like receptor, TLR7に変異がある人が見つかっており、抗SARS-CoV-2免疫における重要性が明らかになっています。
サイトカインが過剰に分泌されるとサイトカインストームと呼ばれる状態になり、活性化した免疫細胞が正常な細胞にもダメージを与えるようになりCOVID-19の重症化に関与しているとの説が有力です。なぜサイトカインストームが起きるかはよく分かっていませんが、主要な炎症性サイトカインであるIL-6の血中濃度と肺炎の重症度との間に明確な関連があることが報告されています。さらに炎症に伴い、COVID-19関連凝固症候群(COVID-19-associated coagulopathy)と呼ばれる血栓症が多彩な合併症を引き起こし抗凝固療法が有効であることが示されてきています。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32706371/
https://doi.org/10.3332/ecancer.2020.1022
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33038939/
COVID-19 and its implications for thrombosis and anticoagulation - ScienceDirect
- 3.検査 ●COVID-19流行期におけるがん関連の検査について
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1)COVID-19流行期における内視鏡検査についてどうすべきでしょうか?
日本消化器内視鏡学会より消化器内視鏡診療におけるQ&Aが示されています。感染の収束が見通せない中では、内視鏡検査における感染リスクを最小限にし、内視鏡診療を提供していく必要があります。各地域における感染状況や緊急事態宣言の発出状況などを鑑みて、各施設の状況に応じた対応が推奨されています1)。
この中で、緊急事態宣言下でも内視鏡検査が延期できないケースとして、下記が挙げられています。
1) 消化管出血がある症例の内視鏡検査や、消化管出血が疑われる場合
2) 経口摂取に影響するような嚥下困難がある場合
3) 胆管炎や閉塞性黄疸、その他有症状の胆膵疾患等内視鏡を使用しての処置が必要な場合
4) 悪性疾患が強く疑われる場合
5) 化学療法や手術に先立って行うステージングのための検査としての消化器内視鏡検査
6) 内視鏡検査・治療によって、対応・管理方法が変わる可能性がある場合
7) 各施設の責任者が必要と判断した場合
気管支鏡検査も感染暴露の可能性が高く、COVID-19感染が否定できない症例で安易な検査を控えること、感染防止策の徹底が提言されています2)。2)COVID-19流行期における放射線検査についてどうすべきでしょうか?
日本医学放射線学会より緊急ではない検査の延期、実施件数の減少が提言されています3)。がん患者では診療の過程で多くの放射線検査を要しますが、緊急度は個々の症例により異なるため、医師、患者のコンセンサスにより実施または延期を決定する必要があります。
3)がん患者の経過観察についてどうすべきでしょうか?
流行期には延期できる通院は、延期すべきと考えられます。治療後の定期的チェックで3~6か月毎に推奨されているケースなどでは、通常3か月ごとにしていたものを6か月後にする、といった対応を検討する必要があります4)。
4)がん検診や健診・人間ドックについてどうすべきでしょうか?
2020年5月26日に厚生労働省より発出された通達「新型コロナウイルス感染症に係る緊急事態宣言の解除を踏まえた各種健診等における対応について」(医政歯発0526第1号他)では、緊急事態宣言下の地域における各種健診について集団で実施するもの(いわゆる「3つの密」のある場で実施するもの)については実施の延期が提言されています。一方で、個別で実施するもの(「3つの密」を避けて実施するもの)については、感染拡大防止の観点を踏まえ検討し、各自治体において、実施機関等と相談しながら判断をする、とされています5)。
がん検診においても同様に、地域の感染状況を踏まえ、検診の実施を検討する必要があります。特に、感染リスクの高い検査を伴う消化器がん検診においては、日本消化器がん検診学会より下記の点に配慮して、感染拡大防止に努めることが推奨されています(詳細は学会HP参照)6)。
1.検診実施の延期を考慮すべき受診者について
2.検診に従事するスタッフについて配慮すべきこと
3.巡回バスなどによる胃X線検診の実施にあたって
4.胃内視鏡検診の感染防護策について
5.便潜血検査による大腸がん検診について
6.精密検査としての消化器内視鏡検査について
7.腹部超音波検診について
- 3.検査 ●がん患者におけるCOVID-19検査について
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1)がん患者で検査に影響がでるのでしょうか?
がん患者でPCR検査や抗原検査に影響があるか、エビデンスはありません。 ただし、血液系腫瘍や抗がん剤などの治療が免疫に影響を与える可能性があります。 実際、COVID-19に対する抗体検査では、がん患者で抗体がつきにくかったとする報告が海外からなされており、注意が必要であると考えられます7)。
2)がん患者ではいつPCR検査を施行するのでしょうか?
がん患者は免疫抑制状態にあり、かつ多くのがんに対する治療が免疫状態に影響を与えます。がん患者はCOVID-19で生じる症状(発熱、咳、息切れなど)に注意する必要があります。
がん患者がいつ検査を受けるべきかについては、明確な基準はありません。一般的な指針は国、地域の医療体制で大きく異なりますが、厚生労働省はCOVID-19が心配な場合の相談、受診の目安として以下の症状を示しています8)。
●息苦しさ(呼吸困難)、強いだるさ(倦怠感)、高熱等の強い症状のいずれかがある場合
●重症化しやすい方で、発熱や咳などの比較的軽い風邪の症状がある場合
●上記以外の方で発熱や咳など比較的軽い風邪の症状が続く場合
重症化しやすい方には高齢者、糖尿病、心不全、呼吸器疾患(COPD等)等の基礎疾患がある方や透析を受けている方、免疫抑制剤や抗がん剤等を用いている方が含まれています。
この他に、海外の指針があります。(下記参照)
WHO:
https://www.who.int/emergencies/diseases/novel-coronavirus-2019/technical-guidance/surveillance-and-case-definitions
米国CDCではこちらを推奨:
https://www.cdc.gov/coronavirus/2019-ncov/downloads/priority-testing-patients.pdf
European Centre for Disease Prevention and Control:
https://www.ecdc.europa.eu/en/case-definition-and-european-surveillance-human-infection-novel-coronavirus-2019-ncov3)どのような人がリスクになりますか?
(引用:ESMO)
確実なエビデンスが存在しないが下記はリスクと考えられます。
● 化学療法を受けている患者、または過去3か月間に化学療法を受けた患者
● 広範囲な放射線療法を受けている患者
● 過去6か月間に骨髄または幹細胞移植を受けた人、またはまだ免疫抑制薬を服用している人
● 血液またはリンパ系がん(たとえば、慢性白血病、リンパ腫または骨髄腫)を持っている人
● 白血球減少症
● 免疫グロブリンが低値
● 長期にわたる免疫抑制状態(ステロイド投与、生物学的製剤)4)COVID-19に感染した場合、いつがんに対する治療が開始できるのでしょうか?
COVID-19感染後にいつ安全にがんの治療を再開できるかについて、確立された見解はありません。 特に抗癌剤治療はCOVID-19の重症肺炎リスクとなることから、慎重な判断が必要です。 また、感染後の抗癌剤治療による再活性化の報告もあり、今後の詳細な検討が望まれます。
一つの目安として、COVID-19感染による症状が完全に消失しており、ウイルス検査で陰性、が専門家や関連学会から提案されています9)。5)PCR検査について
PCRの偽陰性率は11~29%と報告がありますが、検体の採取方法、発症時期、精度管理などにより大きく影響を受けます10) 11)。
6)検体(鼻咽頭、喀痰)の違い
検体の推奨(CDC)12)
・推奨:
鼻咽頭スワブ、喀痰、吸引痰(人工呼吸管理)、気管支肺胞洗浄液(人工呼吸管理)
・推奨しない:
誘発喀痰
上咽頭の検体は病初期に陽性率が高いが(3日目まで90%以上)、徐々に低下する(14日後50%以下)
喀痰などの下気道検体はウイルス量が多く上咽頭からの検体より陽性率が高い13) 唾液についても発症から9日以内であれば、鼻咽頭スワブとの一致率が良好であることから、2020年6月2日、「症状発症から9日以内の者については唾液PCR検査を可能」となりました14)7)PCR以外の検査
・抗原検査
鼻咽頭ぬぐい液中のSARS-CoV-2抗原をイムノクロマト法により検出する抗原検査キットが2020年5月13日に厚生労働省に承認されました。 同検査は約30分で検査結果が得られますが、感度はPCR検査ほど高くないことが明らかとなっています。
2020年6月16日、「発症後2日目~9日目の症例で抗原検査が陰性だった場合、追加のPCR検査なしに確定診断とすることができる」となっています。
・抗体検査
時点で、国内で臨床使用可能な抗体検査はありませんが、FDAで認可している試薬は公開されており、国内でも研究用に流通しています15)。
抗体にはIgG、IgMがあり、また、標的とする抗原部位も検査キットにより様々であることから、それらの有用性は検証が必要です。
本邦でも検査キットの性能確認が行われ、2020年6月1日~7日に一般住民を対象に行われた抗体保有率は、東京都0.10%、大阪府0.17% 、宮城県は0.03%でした16)。8)画像検査
COVID-19では肺炎の状態を反映して下記の画像所見を認めますが、担がん状態が画像所見に影響を与えるかは現時点で明らかではありません。ただし、肺に存在するがん病巣や抗がん剤、放射線治療が画像所見に影響を与える可能性があり、今後の解析が待たれます。
胸部Xp
典型的所見は両側肺野外側優位のすりガラス陰影、浸潤影17)
胸部CT
肺野条件で散在するGGO(ground-glass opacity)が典型的な所見であるが、浸潤影を伴う場合もある18) 19)。
PCRと比較した胸部CT所見の有用性について感度は高いが(97%)、特異度は低い(25%)20) 。
参考文献1) 日本消化器内視鏡学会HP「新型コロナウイルス感染症に関する消化器内視鏡診療についてのQ&A -緊急事態宣言解除後の対応も含めて-(特にクリニックや比較的規模の小さな病院での内視鏡検査を想定した場合)、2020年10月7日(第5版)」:
2) 日本呼吸器内視鏡学会HP:http://www.jsre.org/info/2003_covid19_2.pdf
3) 日本医学放射線学会HP:
http://www.radiology.jp/member_info/news_member/20200421_01.html
4) American Society of Clinical Oncology (ASCO) HP:
https://www.asco.org/asco-coronavirus-information/care-individuals-cancer-during-covid-19
5) 日本人間ドック学会HP:
https://www.ningen-dock.jp/wp/wp-content/uploads/2020/03/200421-Dock_covid19.pdf
6) 日本消化器がん検診学会
https://www.jsgcs.or.jp/importants/archives/32
7) Solodky ML, et al. Lower detection rates of SARS-COV2 antibodies in cancer patients versus health care workers after symptomatic COVID-19: Ann Oncol. 2020 May 1
8) 厚生労働省HP:
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000164708_00001.html
9) Bi J, et al. Does Chemotherapy Reactivate SARS-CoV-2 in Cancer Patients Recovered from Prior COVID-19 Infection-. European Respiratory Journal 2020; DOI: 10.1183/13993003.02672-2020
https://www.nice.org.uk/guidance/ng161
10) Lee TH, et al. Testing for SARS-CoV-2: Can we stop at two- Clin Infect Dis. 2020
11) Fan Y, et al. Sensitivity of chest CT for COVID-19: Comparison to RT-PCR. Radiology. 2020
12) CDC:https://www.cdc.gov/coronavirus/2019-nCoV/hcp/clinical-criteria.html
13) Wang W et al. Detection of SARS-CoV-2 in different types of clinical specimens. JAMA. 2020
14) 厚生労働省「唾液を用いたPCR検査の導入について」:
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_11636.html 15) FDA:
https://www.fda.gov/medical-devices/emergency-situations-medical-devices/emergency-use-authorizations#covid19ivd
16) 厚生労働省「抗体保有調査結果」:https://www.mhlw.go.jp/content/000640287.pdf
17) Wong HYF, et al. Frequency and distribution of chest radiographic findings in COVID-19 positive patients. Radiology. 2019 Mar 27:201160. doi: 10.1148/radiol.2020201160.
18) Shi H, et al. Radiological findings from 81 patients with COVID-19 pneumonia in Wuhan, China: a descriptive study. Lancet Infect Dis. 2020;20(4):425. Epub 2020 Feb 24
18) Zhao W, et al. Relation between chest CT findings and clinical conditions of coronavirus disease (COVID-19) pneumonia: A multicenter study. AJR Am J Roentgenol. 2020
20) Ai T, et al. Correlation of chest CT and RT-PCR testing in coronavirus disease 2019 (COVID-19) in China: A report of 1014 cases. Radiology. 2020
関連情報
日本臨床腫瘍学会:
がん患者さん向けQ&A
https://www.jsmo.or.jp/general/coronavirus-information/qa.html
医療従事者向けQ&A
https://www.jsmo.or.jp/news/coronavirus-information/qa_medical.html
ESMO:
COVID-19 AND CANCER
https://www.esmo.org/covid-19-and-cancer
Testing for COVID-19 in lung cancer patients
https://www.annalsofoncology.org/article/S0923-7534(20)39293-0/pdf
ASCO:
COVID-19 Provider & Practice Information
https://www.asco.org/asco-coronavirus-information/provider-practice-preparedness-covid-19
医療従事者は適切なPCR検体の出し方を習得すべき
ルーチン検体は自宅で採取できる様、検討を
来院患者全員の症状、発熱のスクリーニングを
CDC:
Coronavirus (COVID-19)
https://www.cdc.gov/coronavirus/2019-ncov/index.html
特に検査に関して
https://www.cdc.gov/coronavirus/2019-ncov/symptoms-testing/testing.html
どのような患者が検査を受けるべきかは地域の状況によるが、米国CDCではこちらを推奨
https://www.cdc.gov/coronavirus/2019-ncov/downloads/priority-testing-patients.pdf
検体の推奨(CDC)
https://www.cdc.gov/coronavirus/2019-nCoV/hcp/clinical-criteria.html
推奨:鼻咽頭スワブ、喀痰、吸引痰(人工呼吸管理)、気管支肺胞洗浄液(人工呼吸管理)
推奨しない:誘発喀痰検体の取り扱いについて
https://www.cdc.gov/coronavirus/2019-nCoV/lab/guidelines-clinical-specimens.html
厚生労働省:
新型コロナウイルス感染症について
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000164708_00001.html
- 4.外科的治療
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1)がんの手術のトリアージはどのように考えるべきでしょうか?
がんの手術は標準治療であり、安易に延期したり、他の治療法を選択することは避けるべきです。
実際、一部の低悪性度のがんを除いて、ほとんどのがんは数日から数か月以内に手術しないと致命的となりえる疾患と考えられています。
基本的にはCOVID-19の流行拡大下でもほとんどのがんは十分な感染予防策を講じ、慎重に実施すべきです。
新型コロナウイルス感染拡大によって外出や移動が厳しく制限されるロックダウン政策が行われたイギリスでは、肝がん、肺がん、食道がん、口腔がん、胃がん、卵巣がんなどで3か月の診断の遅れによって10年生存率が年齢によっては15%以上低下する危険性が指摘されています。
新型コロナウイルス感染拡大下においても将来的ながんの治療後の生存率の低下を招かないように叡智を集め、最善の治療を提供することを求められます。
しかしながら、COVID-19流行拡大はがんの専門医が今までに経験したことのない倫理的、社会的、医学的な問題を投げかけています。がんの患者さんの手術を行うか否かは、地域におけるCOVID-19流行拡大の程度や医療スタッフの安全確保に関する病院の体制、COVID-19の院内感染の発生、COVID-19の患者さんに割かれることで制限される医療資源、患者さんそれぞれの悪性度や進行度を含めて総合的に判断するべきと考えられます。
COVID-19流行蔓延期においてもがんの患者さんが極力不利益を被らないような適切な治療を提供する責務を負っており、COVID-19の患者さんの診療とのバランスの中で最適な治療を選択することを求められます。COVID-19流行拡大時には医療供給体制がひっ迫した通常の待機的な手術を行うことが困難となり、手術施行の是非の判断が求められます。そうした中でも1例1例に対して多種職の英知と利用可能な医療資源を集めて検討し、丁寧に対応すべきと考えられます。
米国外科学会(ACS)が推奨するセントルイス大学のElective Surgery Acuity Scale (ESAS) をベースにした手術トリアージの目安を示しています。それによればがんは2つに分類されています。一部の低悪性度のがんは致命的疾患でないが潜在的には生命を脅かす、または重症化する危険性あり、入院を要する疾患に分類され、可能であれば延期すべきとされています。一方、ほとんどのがんは数日から数か月以内に手術しないと致命的となりえる疾患ととらえられており、十分な感染予防策を講じ、慎重に実施すべきとされています。
しかしながら、この基本方針も医療供給体制によって変わってきます。医療供給体制の安定時は前述の基本方針でよいと考えられますが、医療供給体制がひっ迫した事態ではほとんどのがんの患者さんに対してCOVID-19の有無に関わらず代替治療を考慮し、やむを得ない場合のみ適切な感染予防策を講じたうえで慎重に実施することとされています(日本外科学会のトリアージの目安改訂版ver2.4. 2020年4月14日改訂)。
実際にがん治療で世界的に高名なMemorial Sloan Kettering Cancer Centerでは、感染の拡大とともにがんの手術数を25%、50%、75%削減したことが報告されています。
アメリカ外科学会、日本外科学会の提言にも詳しく述べられていますが、手術延期に関しては様々な要因を考慮することが必要です。
(病院周辺地域の環境)
地域におけるCOVID-19流行拡大の程度は重要な因子です。COVID-19においては無症状の患者の存在が知られており、感染拡大によって無症状のCOVID-19の患者が手術予定となるリスクは高くなると考えられます。特に全身麻酔が必要となる場合、気管挿管・抜管時はSARS-CoV-2がエアロゾル・飛沫感染を起こすリスクが高く、手術室スタッフの感染のリスクとなりうることを考慮すべきと考えます。一方、外科手術術後のCOVID-19患者は、重症化のリスクが高くなるとの報告があり、注意を要します。
このように周辺の感染拡大の程度は手術施行の判断において重要な因子となります。
(病院の診療体制・医療資源)
医療スタッフの感染による欠員、COVID-19重症患者のために通常のICU受け入れができない状況、人工呼吸器の不足状態などは待機的手術を行いにくい状況と考えられます。特に個人用感染防護具の供給が十分でなければ病院として待機的な手術の延期を考慮すべきと考えられます。
関連情報
1)日本外科学会ホームページ:
http://www.jssoc.or.jp/aboutus/coronavirus/info20200402.html
2)Sud A, et al. Effect of delays in the 2-week-wait cancer referral pathway during the COVID-19 pandemic on cancer survival in the UK: a modelling study. Lancet Oncol . 2020 Aug;21(8):1035-1044.
doi: 10.1016/S1470-2045(20)30392-2. Epub 2020 Jul 20.
3)The COVID19 subcommittee of the O.R. Exclusive committee at Memorial Sloan Kettering. Cancer Surgery and COVID19. Ann Surg Oncol 2020: 27; 1713-1716.2)手術を延期した患者さんにどのような治療を提供すべきでしょうか?
手術を延期した患者さん対する治療方針はがんの悪性度や手術以外の代替治療の有無、手術を含めた集学的治療の有無によって変わってきます。
1.がんの進展度や悪性度
がんの進展度やがん種によって異なる悪性度によって、手術延期がもたらす患者への不利益は変わってくると考えられています。一般的にがんが比較的早期にとどまる、低悪性度のがんは患者さんへの手術延期の不利益は小さいものと考えられますので、治療を行わず、時期を待ってよいと考えます。
2.代替治療と集学的治療
医療体制のひっ迫時には、低悪性度以外のがんの手術を延期せざるをえない状況が生まれます。そのようなときには手術の代替治療として有効性が証明されている非外科治療があれば代替治療の施行を考えるべきです。集学的治療の一環として術前化学療法や放射線治療の効果が示されているがんでは手術に先立ち、術前治療を導入しうると考えられます。更なる外科手術の遅延が必要で非外科治療が有効であれば、当該治療を延長することが提案されています。また、手術後の補助化学療法が推奨されているがん種では手術延期の場合、補助化学療法のレジメンを先行することが提案されています。
いずれの場合においても、このような手術の延期や治療法の変更に際しては患者さんへの十分な説明が必要です。
関連情報
1)Bartlett DL, et al. Management of cancer surgery cases during the COVID-19 pandemic: considerations. Ann Surg Oncol. 2020 Ann Surg Oncol Jun;27(6):1717-1720. doi: 10.1245/s10434-020-08461-2. Epub 2020 Apr 8.3)がんの患者さんに対する手術延期を含めた治療方針はだれがどのように決めるのがよいでしょうか?
複雑な医療体制や地域の感染状況が変化する中では主治医が個人的に治療方針を決定するのではなく、キャンサーボードのある施設などが地域の状況、COVID-19の有病率、または非外科的治療などの代替治療の可能性に基づいてトリアージ基準を作成することが望ましいとされています。わが国では地域における治療方針をある病院のキャンサーボードが決定することは難しいと思われますが、施設ごとの各領域の専門家を集め協議し、できる限り意思決定を共有し、記録として残しておくことが望ましいと考えられます。
COVID-19の流行は数週間から数か月にわたってこれらのフェーズをたどって進行し、その後、段階的に縮小されることが予測されます。 したがって、がん治療の提供に関する決定に関しては、リーダーがこれらのフェーズの内容を理解し、がん治療の方針を決定する必要があります。そして定期的に危機の状況を把握した上で周囲の環境を理解し頻繁に更新する必要があります。
関連情報
1)Qadan M, et al. A multidisciplinary team approach for triage of elective cancer surgery at the Massachusetts General Hospital during the novel coronavirus COVID-19 outbreak. Ann Surg. 2020 Jul;272(1):e20-e21. doi: 10.1097/SLA.0000000000003963.4)がんに対する腹腔鏡手術は行ってよいでしょうか?
SARS-CoV-2陽性患者の術式は、がんの手術トリアージに則り医学的観点および限りある医療資源の効率的かつ効果的な配分の観点から多角的に検討して判断されます。
飛沫感染と接触感染により感染するCOVID-19では、手術中の感染リスクが高まることから、一番重要なことは、SARS-CoV-2陽性患者専用の手術室を設け、陰圧を保つこととされています。
患者がCOVID-19と診断されている場合や疑いが否定できない場合の腹腔鏡手術にあたっては、腹腔鏡手術が開腹手術に比べエアロゾル発生の原因となることを認識し、高精度フィルターおよび排ガス装置などの条件を必ず確認したうえで実施すべきとされています。
通常の開腹手術に比べ腹腔鏡手術の方が医療者への感染を増加させるという証拠はありませんが、上記エアロゾル発生から個人防護具(PPE)のフル装備が必要となります。
特にPPEフル装備での手術はそれを要しない手術と比較して、体力の消耗や精神的な疲労が大きくなることから、短時間手術となるように努めるとともに長時間に及ぶ場合は手術を交代するための人員を準備することが求められています。
関連情報
1)Resources for smoke & gas evacuation during open, laparoscopic, and endoscopic procedures (SAGES; Society of American Gastrointestinal Endoscopic Surgeons)
https://www.sages.org/resources-smoke-gas-evacuation-during-open-laparoscopic-endoscopic-procedures
2)COVID-19 guidelines for triage of colorectal cancer patients (American College of Surgeons; ACS)
https://www.facs.org/covid-19/clinical-guidance/elective-case/colorectal-cancer
3)日本外科学会ホームページ:
http://www.jssoc.or.jp/aboutus/coronavirus/info20200402.html
4) Eysenbach, G. COVID-19 and laparoscopic surgery: Scoping Review of Current Literature and Local Expertise. JMIR Public Healthe Suveil. 2020; 6(2): e189285)手術患者が濃厚接触者疑いの場合に、手術は延期すべきでしょうか?
手術施行の判断の根拠として、SARS-CoV-2のPCR検査が望まれます。検査が陰性で感染兆候もみられなければ、手術は適切な感染予防策を講じたうえで慎重に実施されるべきです。検査が陽性であった場合は、がんの進行度などを考慮した上で、可能であれば延期し、やむを得ない場合のみ十分な感染予防策を講じたうえで慎重に実施すべきと考えられます。ただ、医療供給体制のひっ迫時には、様々な要因をふまえ総合的に判断する必要があります。
また、胸部CT画像での間質性肺炎像の有無も、手術前のスクリーニングには使うことができます。
関連情報
1)新型コロナウイルス感染症蔓延期における外科手術トリアージの目安(改訂版ver2.4、2020年4月14日)(日本外科学会)
https://www.jssoc.or.jp/aboutus/coronavirus/info20200414.pdf
2)COVID-19 Patient Care Information(ASCO)
・Anti-cancer therapy for patients with COVID-19 infection: Should cancer therapy be delayed in patients who are infected with COVID-19- ・SURGERY: Can/should surgery be cancelled or delayed- If surgery is delayed, should patients be started earlier on neoadjuvant therapy if that is an available option-
https://www.asco.org/asco-coronavirus-information/care-individuals-cancer-during-covid-19
3)Mori M, et al. COVID 19: clinical issues from the Japan Surgical Society. Surg Today. 2020, 50:794-8086)医療資源の備蓄を考慮した上で消化管吻合は手縫いで行うべきでしょうか?
自動吻合器・縫合器の供給が安定していれば、特に制限する必要はないと思われます。
供給が滞る場合には、自動縫合器・吻合器の使用を制限し、これらの機材の必要性の高い手術に優先的に割り当てる対策が必要と思われます。
自動吻合器・縫合器のサプライヤーと連絡を密にし、自動吻合器・縫合器の供給に関する情報をアップデートしてください。7)慢性呼吸器疾患患者の外科治療は控えるべきでしょうか?
慢性呼吸器疾患は、COVID-19の重症化リスクの1つです。COPD(chronic obstructive pulmonary disease)、慢性気管支炎、肺線維症などが挙げられます。これらの患者では、COVID-19に重症肺炎を発症する可能性が高いため、COVID-19診断症例・疑い症例ではがん手術を延期できる場合は延期した方がよいと考えられます。しかし、進行度などの様々な要因をふまえ総合的に手術が必要と判断された場合、SARS-CoV-2のPCR検査が陰性で症状もなく、画像上もCOVID-19を疑う所見がなければ、十分な感染予防策を講じたうえで慎重に実施が検討されるべきです。
特に、COPD患者の呼吸機能が低下した場合、人工呼吸管理が必要になる可能性がありますが、COPD患者における人工呼吸管理は高い致死率が報告されています。
このような慢性呼吸器疾患の患者の手術の際は、呼吸機能の悪化に備え、集中治療室の受け入れ体制の確認が必要です。
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1)Statement from Centers for Disease Control and Prevention
https://www.cdc.gov/coronavirus/2019-ncov/need-extra-precautions/people-with-medical-conditions.html
avirus%2F2019-ncov%2Fneed-extra-precautions%2Fgroups-at-higher-risk.html
2)新型コロナウイルス感染症蔓延期における外科手術トリアージの目安(改訂版ver2.4、2020年4月14日)(日本外科学会)
https://www.jssoc.or.jp/aboutus/coronavirus/info20200414.pdf
3) Caring for patients with COPD and COVID-19: a viewpoint to spark discussion
https://thorax.bmj.com/content/thoraxjnl/75/12/1035.full.pdf8)手術中、手術後の経鼻胃管で気を付けるべきことがありますか?
患者の咳き込みや嘔吐反射の際にウイルスを含む飛沫やエアロゾルが拡散し、これらを介した感染が起こり得ます。挿入時や抜去時、また留置中の管理には従事者の感染防御対策(PPE等)が必要です。必要性の低い術後の胃管留置は推奨されません。
ウイルス蔓延下での消化器外科としてのエビデンスはなく、施設と主治医の判断に委ねます。9)術後麻痺性イレウスに対する経鼻胃管、イレウス管留置において気を付けるべきことがありますか?
患者の咳き込みや嘔吐反射の際にウイルスを含む飛沫やエアロゾルが拡散し、これらを介した感染が起こり得ます。したがって、経鼻胃管およびイレウス管の挿入および管理に感染のリスクが伴うため、明らかな閉塞起点のない麻痺性イレウスでは、基本的には腸管蠕動運動促進薬で対応し、経鼻胃管やイレウス管は推奨されません。嘔吐や誤嚥のリスクが高い場合には、十分な感染予防に務めた上で、これらの減圧処置を考慮します。
SARS-CoV-2感染が確認された有症状者でも、発症日から2週間経過し、かつ症状軽快後72時間経過した場合、あるいは10日以上経過しPCR検査2回にて陰性が確認されている場合は、治癒していると考えて減圧処置は可能です。
無症候陽性者も同様に対応します。
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1)新型コロナウイルス感染症(COVID-19)への消化器内視鏡診療についての提言・改訂第6版(日本消化器内視鏡学会 2020年5月29日)
https://www.jges.net/medical/covid-19-proposal10)COVID19の感染拡大が落ち着いてきた時の、手術の再開のタイミングや再開する場合には、どのようなことに配慮すればよいでしょうか?
2020年5月22日に 「新型コロナウイルス感染症パンデミックの収束に向けた外科医療の提供に関する提言」が日本外科学会と関連学会から発出されました。この提言では各施設内での足並みをそろえるべく外科系各科・麻酔科・看護部から構成される手術のあり方を検討する委員会(名称例:「○○病院手術のあり方委員会」)などを設立し、施設内での基準を統一し、全病院を挙げての取り組みの一環として入院・外来を含めた手術全般のあり方について計画的に対応することを推奨しています。
提言の中では予定手術再開のタイミングとして3つの条件が挙げられています。
・各地域での新規感染者数の発生が最低2週間にわたり減少傾向を維持
・医療資源(スタッフ・手術室・ICU・一般病棟・検査室・個人防護具(personal protective equipment:PPE)・人工呼吸器・手術器材・薬剤・滅菌・施設の清掃など)が十分に確保されているもしくは確保の見込みがある
・各地域の医療行政との緊密な連携が保てている(最新の感染状況を把握し速やかに対応できる準備)
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1)新型コロナウイルス感染症パンデミックの収束に向けた外科医療の提供に関する提言
http://www.jssoc.or.jp/aboutus/coronavirus/info20200522.html11)手術再開にあたって、患者さんへの説明で留意すべきことがありますか?
「新型コロナウイルス感染症パンデミックの収束に向けた外科医療の提供に関する提言」においては患者さんとの良好なコミュニケーションの重要性が強調され、COVID-19 パンデミック後の感染対策やリスクについての以下の10項目にわたる十分な説明が求められています。
① 各地域の感染蔓延状況と患者の病態に応じた公正かつ中立なルールに基づき、全ての患者に対し適切な外科医療が確実に行われること
② COVID-19と手術に関する正確な情報提供
③ 術前患者の自宅待機要請およびCOVID-19感染の有無の検査方針
④ 手術患者のPPEを始めとする安全確保への施設および医療従事者の取り組み
⑤ 術後にCOVID-19感染が疑われた場合の検査方針
⑥ 万一の病状悪化時に備え自らの治療方針を事前に意思表示できること(事前指示書:advance directive)
⑦ 家族や友人の面会(付き添い含む)の制限と、家族やキーパーソンへの手術説明・病状説明の方法の取り決め
⑧ 術後のオンライン外来を含めた経過観察の方法
⑨ 退院後のマスクや手洗い、外出自粛、社会的距離確保の徹底
⑩ 退院後、体調悪化時の連絡先と受診方法
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1)新型コロナウイルス感染症パンデミックの収束に向けた外科医療の提供に関する提言
http://www.jssoc.or.jp/aboutus/coronavirus/info20200522.html
- 5.放射線治療
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1)COVID-19感染、あるいは感染を疑う患者に対する放射線治療の対応はどうしますか?
各施設の執行部(病院長等)や感染対策チームとも連携の上で、施設ごとに事業継続計画(business continuity planning, BCP)を事前に策定しておくことが重要です。
COVID-19 の治療が最優先されます。陽性患者あるいはその疑いがある患者については、基本的に外出自粛あるいは院内隔離が実施されることから、特段の理由がない限り、陰性化あるいは陰性が確認されるまで、放射線治療の開始を延期あるいは中断する対応を取らざるを得ないと考えられます。
治療中断を余儀なくされた患者の放射線治療を再開する際は、対象疾患、治療目的、中断期間等を考慮し、中断による影響が大きいと考えられる場合は、Gay HAらの文献等も参考に、可能な範囲内で影響を最小化することを検討します。
これらの検討の結果、放射線治療の延期や中断が許容できないと判断される場合に限り、院内の感染症制御チーム(ICT)とも相談の上で、十分かつ適切な感染予防対策を講じることを前提に慎重に放射線治療の実施について検討ください。
なお新型コロナウイルス感染流行期における放射線治療部門の対応については、日本放射線腫瘍学会のホームページに書かれています。 さらに、臓器別の各論的対応については、日本放射線腫瘍学会COVID-19対策アドホック委員会・コロナ対策実行グループから発行されている「COVID-19パンデミックにおける放射線治療の提言(第1.2版)」に書かれていますので参考にしてください。
Gay HA, et al. Lessons learned from Hurricane Maria in Puerto Rico: Practical measures to mitigate the Impact of a catastrophic natural disaster on radiation oncology patients. Pract Radiat Oncol. 2019;9(5):305-321.
https://jastro-covid19.net/professional/
https://jastro-covid19.net/data/jastro_covid19_proposal_1_2.pdf2)COVID-19流行地域での放射線治療を中断、延期すべきですか?
治療を遅らせることによる不利益を疾患や病状、治療目的に応じ個々に判断する必要があります。前立腺がんに対するホルモン療法などの待機治療が可能であれば、放射線治療の延期を検討できます。乳がんの術後照射では再発リスクに応じて主治医との十分な相談の上、延期も検討してください。頭頸部腫瘍、食道がん、肺がん、子宮頸がんなど根治的な放射線治療では多くの場合、放射線療法の延期は推奨されません。緩和的な放射線治療では代替方法なども含め必要性について検討をした上で適応を考慮して下さい。線量分割においては、一回線量を増加した治療回数の少ない放射線治療(寡分割照射法)に代替が可能であれば積極的に治療スケジュールの採用を考慮してください。
臓器別の寡分割照射法は、「COVID-19パンデミックにおける放射線治療の提言(第1.2版)」に書かれていますので参考にしてください。
一方、治療中断を余儀なくされた患者の放射線治療を再開する際は、対象疾患、治療目的、中断期間等を考慮し、中断による影響度が大きいと考えられる場合には、Gay HAらの文献等も参考に、可能な範囲内で影響を最小化することを検討してください。
Gay HA, et al. Lessons learned from Hurricane Maria in Puerto Rico: Practical measures to mitigate the impact of a catastrophic natural disaster on radiation oncology patients. Pract Radiat Oncol. 2019;9(5):305-321.
https://jastro-covid19.net/professional/3)放射線治療中の診察、経過観察はどうしますか?
COVID-19の場合は治療に専念することを優先します。ウイルスの消失が確認されたのちに経過観察を再開します。
SARS-CoV-2の有無が不明の場合、まず48 時間以内の上気道症状、発熱、嗅覚・味覚障害、海外や他県滞在歴などについて問診を行います。マスクをつけていない有症状感染者と長時間診察室に同席することは極力回避して下さい。
診療時にエアロゾルを発生させる手技(経鼻・経口内視鏡検査など)は行わないことが推奨されています。内視鏡検査を行う場合には手袋、サージカルマスク、(COVID-19感染リスクの高い症例ではN95マスクを推奨)、アイシールドなど適切な個人用防護具(PPE)を用いて行います。舌圧子による口腔診察時も同様の防護が必要です。聴診器も使用後の消毒が必要です。
経過観察においては、再来間隔の延長を検討してください。可能であれば予約の前日に電話でスクリーニングを行い、必要に応じて予約を延期したり、遠隔診療に変更したりすることも考慮してください。
https://jastro-covid19.net/professional/
http://www.jibika.or.jp/members/information/info_corona_0617_05.pdf4)放射線治療前にSARS-CoV-2のPCR 検査を行う必要がありますか?
無症候のSARS-CoV-2保有者に対する放射線治療により、患者ならびに医療スタッフへの感染拡大が起こると、がん放射線治療の抑制、機能停止に直結する恐れがあります。また、がん患者は COVID-19による重症化リスクが高いことが明らかであることも、大きな懸念点です。放射線治療患者においても、安全に治療を実施するには治療前にPCR検査を行う必要があると考えられます。また、無症候の患者であっても医師が必要と判断した場合にはSARS-CoV-2のPCR検査を保険適用で行えるようになりましたが、放射線治療を行う全患者に、PCR 検査を行う施設は現状ではごく一部です。
第3回COVID-19全国実態調査結果報告:
https://www.jastro.or.jp/medicalpersonnel/news/20201215.pdf5)放射線治療中の患者あるいは放射線治療スタッフに陽性者が出た場合、他患者の治療は続行して良いでしょうか?
陽性者の発生状況に基づいて,各病院の感染症制御チーム(ICT)と相談して決定してください。やむを得ず照射を休止する場合でも、可及的速やかに再開できるように準備しておくことが重要です。まず放射線治療を継続するのに最低限必要な放射線腫瘍医、放射線技師、放射線科看護師、医学物理士等の関連スタッフ数を明確にし、職員の感染や濃厚接触等によって生じる欠員により、この最低必要人数を下回る可能性が出た時点での対応(新規患者の受け入れ可否、治療中の患者の継続可否等)を明確にしておくことが重要です。いつ何時そうなっても困らないように、放射線治療にかかわるすべての診療場面で、普段から個々の感染防護を意識して下さい。