新型コロナウイルス感染症とがん診療について:医療従事者向け Q&A【4】|学会概要|日本癌学会

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新型コロナウイルス感染症とがん診療について:医療従事者向け Q&A【4】

最終更新日:2023年4月3日 

新型コロナウイルス感染症とがん診療について:医療従事者向け Q&A【1】
新型コロナウイルス感染症とがん診療について:医療従事者向け Q&A【2】
新型コロナウイルス感染症とがん診療について:医療従事者向け Q&A【3】
新型コロナウイルス感染症とがん診療について:医療従事者向け Q&A【4】

Ⅵ. 肝胆膵領域の悪性腫瘍
 

 肝胆膵領域の悪性腫瘍は典型的な生物学的悪性度の高い腫瘍であり、それに対する手術は比較的緊急性が高いと考えられます。COVID19感染拡大期に手術を行うか否かは病院の医療供給体制、集学的治療が可能か否か、症状、疾患の悪性度などに照らして決定されるべきです。

1)肝胆膵の腫瘍に対する手術で延期が考慮されるものはありますか?

まず延期となる対象として比較的悪性度の低い腫瘍が上げられます。無症候性の膵神経内分泌腫瘍、十二指腸・乳頭部腺腫やGIST、High risk stigmataの膵管内乳頭粘液腫瘍などが上げられます。

関連情報
1)Bartlett DL, et al. Management of Cancer Surgery Cases During the COVID-19 Pandemic: Considerations. Ann Surg Oncol https://doi.org/10.1245/s10434-020-08461-2

2)医療供給体制がひっ迫した状況で切除可能な膵がんに対して手術を延期せざるを得ない状況における治療はどうすればよいですか?

 術前化学療法(Neoadjuvant chemotherapy: NAC)の効果が示されているがんでは手術に先立ち、NACを導入しうると考えられます。最近、切除可能な膵がんに対してゲムシタビン(ジェムザール○R)とテガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム(TS-1○R)の併用療法(GS療法)によるNACの有効性が示されました(Prep-02/JSAP-OS試験)。すなわち、GS療法を術前に受けた患者さんでは術後生存率が有意に改善しました。したがって、手術延期が必要な場合にはまずGS療法に導入し、手術が可能となる状況まで待つことは容認されると考えられます。もし、化学療法の効果が見られ患者さんの忍容性が担保できるようであれば、手術が可能となる時期まで投与期間を延長することも容認されると考えられます。

関連情報
1)Bartlett DL, et al. Management of Cancer Surgery Cases During the COVID-19 Pandemic: onsiderations. Ann Surg Oncol https://doi.org/10.1245/s10434-020-08461-2
2) Motoi F, et al. Randomized phase II/III trial of neoadjuvant chemotherapy with gemcitabine and S-1 versus upfront surgery for resectable pancreatic cancer (Prep-02/JSAP05). Jpn J Clin Oncol. 2019 Feb 1;49(2):190-194. doi: 10.1093/jjco/hyy190.
3) ASCO home page https://www.asco.org/asco-coronavirus-information /care- individuals -cancer-during-covid-19)。

3)肝細胞がんに対する手術を予定していたのですが、どうすればよいか?

COVID-19の感染拡大期の肝細胞がんに対する治療についての推奨が示されています。我が国の実情に合わない点もありますが、紹介したいと思います。3個、3㎝以下で肝機能が保持され、PS0のearly stage(A)の肝細胞がんに対する切除は延期し、TACEや低位放射線療法、全身化学療法などのbridging locoregional therapyが推奨されました。生体肝移植については中止を考慮すべきとされています。
肝細胞がんの治療に関しては日本肝がん分子標的治療研究会よりガイダンスが発出されました2)
本ガイダンスでは、COVID-19感染まん延時の肝切除施行にあたっては医療従事者への感染予防のためのPCR検査スクリーニングの術前実施、重症化リスクを高める合併症を有さない患者の選択の重要性が示されています。
さらに肝細胞がんの肉眼分類や分化度などの悪性度を考慮した上で、緊急を要さないケースにおいては可能な限り肝切除の延期を考慮すべきとしてしています。
また、症例を選択した上で代替療法としてのラジオ波腫瘍焼灼術(RFA)へのconversionや薬物療法によるブリッジングとしての薬物療法の施行による入院の回避や期間の短縮を提案しています。
肝胆膵悪性腫瘍に関してはSociety of Surgical Oncologyよりのトリアージに関する考え方が示されましたので、表にまとめました。参考にされて下さい。



関連情報
1) ILCA guidance: https://ilca-online.org/covid19andlivercancer/
2) 工藤正敏、黒崎雅之、池田公史ら、COVID-19アウトブレイク時における肝細胞がん治療のガイダンスー日本肝がん分子標的治療研究会ワーキンググループレポートー。肝臓2020:61;389-98. 3) https://www.surgonc.org/wp-content/uploads/2020/04/GI-and-HPB-Resource-during-COVID-19-4.6.20.pdf

Ⅶ.耳鼻咽喉科・頭頸部領域のがん

1)これから手術を行う予定ですが、手術を施行しても大丈夫ですか?

より良い治療のためには治療開始のタイミングが重要です。がんの種類と治療法、体の状態などによって、治療を延期できる場合とできない場合があります。例えば、甲状腺乳頭がんなどのように進行が遅い早期のがんの場合では、手術の延期も検討すべきと考えます。一方で、進行が早いがんや、窒息や出血の危険性があるがんの場合には、手術を延期することにより、最悪の場合生命が脅かされる場合もあります。現時点では流行が収まる時期が不明であることから、可能であれば予定通りの治療の開始が勧められます。現状ではCOVID-19患者の受け入れや、院内での医療従事者のCOVID-19発症などに伴い通常より手術枠が大幅に制限されている施設が多いものと思われます。そのため手術待機期間が長くなり、手術不能になったり手術術式の大幅な変更が必要となってしまう危険性があります。待機時間が長くなるような場合には、腫瘍の増大を抑制する目的で術前化学療法を施行することも選択肢の一つになると考えます。ただし、これらのがん治療はSARS-CoV-2に感染していないことが前提となります。

関連情報
日本外科学会 https://www.jsmo.or.jp/news/coronavirus-information/qa_medical.htmlhttp://www.jssoc.or.jp/aboutus/
coronavirus/info20200402.html


日本外科学会 https://www.jsmo.or.jp/news/coronavirus-information/qa_medical.htmlhttps://www.jssoc.or.jp/aboutus/
coronavirus/info20200414.html


日本臨床腫瘍学会 https://www.jsmo.or.jp/news/coronavirus-information/qa_medical.htmlhttps://www.jsmo.or.jp/news/coro
navirus-information/qa_medical.html

2)これから術後治療を行う予定ですが、始めても大丈夫ですか?

頭頸部がんの術後治療としては、中等度危険群に対しては放射線療法が、高度危険群に対しては高容量シスプラチン併用化学放射線療法(CDDP-RT)が行われるのが標準的です。放射線療法は感染に対する抵抗力の低下を招くことはないので、他の方と同様な感染対策をとった上で治療を行なっていただくのが妥当と考えられます。CDDP-RTでは骨髄抑制や発熱性好中球減少症などの有害事象が生じる場合があることがよく知られています。このような場合には感染に対する抵抗力が低下しており、肺炎を起こすなど重症化しやすいとの報告もありますので注意が必要です。特に心血管疾患、糖尿病、高血圧、慢性呼吸器疾患の既往のある患者では、COVID-19肺炎が重篤化して致死率も高いとの報告もあります。これらの既往のある患者に対してはG-CSF製剤や予防的な抗生剤投与も検討するべきと考えます。
また、再発転移頭頸部扁平上皮がんで用いられる免疫チェックポイント阻害薬は、重篤な免疫関連有害事象を起こすことが報告されているため、患者ごとに有用性と副作用の両者を考えて治療を行うことが重要です。特に有害事象として間質性肺炎が生じた場合は、COVID-19肺炎が重篤化する危険性が高いと考えられます。

関連情報
日本放射線腫瘍学会 https://www.jastro.or.jp/customer/news/20200425.pdf
日本臨床腫瘍学会 
https://www.jsmo.or.jp/news/coronavirus-information/qa_medical.html
https://www.jsmo.or.jp/general/coronavirus-information/qa.html

3)定期的な検査や診察の予定通り行うべきでしょうか。延期してもよいのでしょうか?

今まで通りの間隔で検査や診察を行うべきか、延期するべきかは、患者の年齢、がん種、ステージ、治療終了からの経過時間、現在の臨床所見などにより異なります。頭頸部がんの大半は扁平上皮がんです。扁平上皮がんの疾患特異的生存曲線を描くと、ほとんどの場合は治療後2年までは生存率が下がって行きますが、2年を経過するとほぼ横ばいになります。そこから考えると、治療後2年未満の患者であれば再発転移のハイリスク群と考え、通常通り検査や診察を行うべきと考えます。一方2年以上経過している患者はもともと外来の間隔も2~3か月程度の場合が多いと思いますが、電話診を行い特段変わりがなければ診察を半年毎に延期するのが妥当と考えます。また、もともと進行速度が遅いことで知られている甲状腺乳頭がんや腺様嚢胞がんの場合は術後2年経過していなくても、診察の延期が可能と考えます。外来の延期をした患者で、定期的な投薬が行われている患者に対しては、薬が切れないように処方箋の郵送などを行い、病院に行かずとも、もよりの薬局で薬を受け取ることが出来るように配慮する必要があります。

関連情報
日本臨床腫瘍学会 https://www.jsmo.or.jp/general/coronavirus-information/qa.html

4)気管切開を安全に行うにはどのようにしたらよいでしょうか?

SARS-CoV-2陽性患者の長期挿管例では気管切開が検討されます。このような患者に対して気管切開を行う場合は、通常の気管切開とは異なる様々な準備が必要となります。まず気管切開のタイミングですが、SARS-CoV-2は発症後10日?14日程度で大幅にログコピー数が減少します。よって、2週間程度は挿管管理として、それでも呼吸状態が改善しない場合、気管切開を検討するのがよいと考えられます。可能であれば気管切開前にログコピー数を再検査しておくと術者側の心理的負担を軽減できまます。気管切開時には気道が外気と直接交通しエアロゾルの発生するリスクがありますので、少なくとも個室、さらにいうならば陰圧個室で行われることが望ましいです。術者および助手はfull PPEの上に手術用ガウンを着ることになるので、かなり暑いです。汗をかきフェイスシールドやゴーグルが曇ることがあるので、曇り止めなどを予め使用しておくことをお勧めします。手術に用いるデバイスでは吸引システム付きの電気メスが有用です。その他は通常の気管切開と同様です。気管の外側壁に到達したら、酸素化を充分にした後に人工呼吸器を停止し、筋弛緩剤を使用し呼吸も一旦止めます。ここからの操作ではエアロゾルの発生や気道熱傷の発生を避けるために、電気メスやバイポーラの使用は避け、コールドデバイスのみを用います。素早く気管壁を逆U字型に切開し針糸で固定します。気管切開孔より挿管し人工呼吸器に繋ぎ呼吸を再開させます。また、耳鼻咽喉科・頭頸部外科領域では腫瘍による気道狭窄や、急性喉頭蓋炎・扁桃周囲膿瘍などの炎症疾患による気道狭窄などの気道緊急の症例に遭遇することも少なくありません。このようなケースではPCRの結果を待つことはできないので、SARS-CoV-2陽性患者と同じ対応が必要となります。
関連情報
日本耳鼻咽喉科学会 http://www.jibika.or.jp/members/covid19/info_corona.html

Ⅷ. 口腔がん
 

 SARS-CoV-2は鼻腔・上咽頭などの上気道の粘膜や唾液、唾液腺導管内に多く存在し、口腔(特に舌)粘膜にウイルスの感染門戸となるACE2レセプターが多く存在することが示されており、これらの部分の手術は、他の部位の手術に比べ、術中にウイルス感染を周囲に波及させる危険性が高くなる可能性があることをまず理解しておくべきです。特に気管切開を行う場合や行なった場合は、気管切開孔の管理やカニューレ管理の際に感染リスクが高くなることを認識すべきと考えられます。手術をしない非外科的な治療法(薬物療法や放射線療法)が手術+放射線療法と同等と思われる場合は、非外科的な治療が推奨される場合があります。代替となりうる治療法の選択肢については十分に検討したうえで、それぞれの治療法のリスクとベネフィットを考え適応を決定します。

1)口腔がんを治療する場合、どのような基準を基にどのように治療法を決定すべきでしょうか?

手術以外の代替となる治療選択も十分に考慮したうえで、治療法を決定するが、手術が根本的治療の原則である事に変わりはありません。日本外科学会では、COVID-19蔓延期における外科手術のトリアージ(表1)を示しています。これによるとほとんどの口腔がんは疾患レベルC(数日から数か月以内に手術しないと致命的となりうる疾患)に分類されます。そのためこのトリアージに沿った治療が基本となります。治療の開始については、がんの種類と治療法、全身状態により、治療を延期できる場合とできない場合があります。治療が6週間以上遅れると、特に予後不良となることが予想される場合や切迫した気道障害を伴うがん、急速な進行を示すがん、高悪性度または進行唾液腺がん、再発がんの救済手術などは感染予防に細心の注意を払い、早期の治療開始が勧められます。
また、上記を含む口腔がんの対応については、表2に一つの案を示しますが、実際は各地域における感染者数発生状況の推移や各医療施設での決定に従うべきです。前述のように手術適応の決定や実施については、治療延期による予後への影響、代替医療の有無、医療従事者への感染リスク、院内感染リスク、患者の全身状態、医療資源の現状なども踏まえて決定する必要があります。また、手術を施行する場合は、エアロゾル発生(骨削除器機、高速切削器具等の使用、電気メス、超音波凝固切開装置、気管切開術の施行)に留意し、必要最小限の医療従事者数で短時間に行えるよう努力しましょう。 さらに、ポピドンヨードにはSARS-CoV-2に対する殺ウイルス効果が示唆されており、唾液中のウイルス量を減らすために、手術前に患者、医療従事者双方の口腔、鼻腔をポピドンヨードで消毒することが推奨されます。
以下、具体的に示します。
①SARS-CoV-2陽性症例
・COVID-19の治療が最優先される。手術及び治療自体を延期もしくは中止が原則で、COVID-19治癒後患者の状態や予後を勘案し、代替医療も含め再度治療方針を決定する。
・気道閉塞などが懸念される場合など、緊急時であれば陰圧室でfull PPEでの気管切開術のみを考慮し、まずCOVID-19の治療を優先する。口腔がんについては治療延期もしくは中止とし、COVID-19治癒後患者の状態や予後を勘案し、代替医療も含め再度治療方針を決定する。
②SARS-CoV-2陰性症例
・標準的PPEで手術を施行するが、必要最小限の医療従事者数で短時間に遂行できるように努力する。
また、その際は胸部CT検査も加えて評価をすることが望ましく、異常所見が認められた場合は、手術は延期とし胸部陰影精査を優先し、その結果に応じた対応を取る。
③SARS-CoV-2不明(未検査)症例
・可能であればPCR検査、胸部CT検査を行い、その結果に応じた治療方針となる。
・PCR検査が不可能な場合は、術前2週間の自宅待機を指示し、入院時に胸部CT検査を行う。胸部CTで異常所見なく、また感染を疑う症状もなく、気管切開が不要な場合 は、標準PPEで手術を行う。気管切開が必要な場合はfull PPEでの対応が必要とな る。
・緊急時であれば陰圧室でfull PPEで手術を施行するが、可能であれば気管切開術のみにとどめ、その後精査のうえ患者の状態や予後を勘案し、代替医療も含め治療方針を再度決定する。 ・術前2週間の自宅待機を指示したうえで、胸部CTで異常所見が認められた場合は、陽性例に準じ、胸部精査を優先とし、口腔がんについては一時治療延期もしくは中止とし、精査後その結果によって、患者の状態や予後を勘案し、代替医療も含め治療方針を再度決定する。





上記に加え新型コロナウイルス感染症流行期の口腔がん各症例別の治療優先度を3段階に分けたESMOの以下の提言も参考に決定してください。
最優先:患者の状態が不安定で逼迫しており、最優先で考慮すべきもの
中等度優先: 患者の状態は危機的ではないが、6週間以上遅延すると結果に影響すると考えられるもの
低優先: 患者の状態は安定しており、新型コロナ感染症流行時においてはある程度の待機が可能と考えられるもの
①外来患者について
・最優先:新規口腔癌診断患者、放射線治療や薬物治療等により急性の有害事象を有する患者、術後合併症を有する患者、治療後の再発が疑われる患者
・中等度優先:治療後で遅延的有害事象を有する患者、合併症のない術後もしくは化学放射線療法後患者、心理的サポートが必要な患者、根治的治療後2年以内の患者
・低優先:2年以上経過患者で再発や有害事象の見られない患者
②手術患者について
・最優先:cT2-cT4、cTN+、気道に問題(呼吸困難、嚥下困難、嚥下時痛、出血により気道閉塞の危険性等)のある、また下顎骨病的骨折、開口障害を有する患者、cT3-cT4、cTN+の高悪性度唾液腺癌患者
・最優先もしくは中等度優先:cT1、唾液腺癌cT1-cT2
・低優先:口腔癌では特に無い
③非外科的治療と術後治療施行患者について
・最優先: リスクより患者の利益が上回ると考えられる臨床試験における治療の継続
・最優先もしくは中程度優先:ポジティブマージンもしくは被膜外浸潤を認める扁平上皮癌や肉腫、高悪性度唾液腺癌に対する根治的(化学)放射線療法、出血などの症状の見られる患者に対する姑息的治療
・低優先:低再発リスクを有する患者に対する放射線治療、基底細胞癌、特段の症状のない患者に対する姑息的医療
④再発・転移に対する治療施行患者について
・最優先:リスクより患者の利益が上回ると考えられる臨床試験における治療の継続、急激に進行し症状の悪化が見られる患者の早急な治療
・中等度優先:急激な進行を示さないと思われる患者への治療の開始
・低優先:全身状態不良患者に対する免疫チャックポイント阻害薬などの単独療法
⑤再発・転移を有する終末期患者
・最優先:気道閉塞の危険性がある患者への気管切開術、骨折または出血の危険性がある病変を有する患者、急激な脊髄圧迫を示す患者
・中等度優先:上大静脈症候群や出血など症状を伴う転移病変への放射線治療
・低優先:症状の無いまたは危機的な状態ではない転移病変への放射線治療、転移病変に対する手術や放射線治療などの姑息的局所療法

2)非外科的療法(薬物療法、放射線療法)については、どのように対応すれば良いでしょうか?

非外科的な治療法(薬物療法や放射線療法)が手術+放射線療法と同等と思われる場合は、非外科的な治療が推奨される場合があります。代替となりうる治療法の選択肢については十分に検討したうえで、それぞれの治療法のリスクとベネフィットを考え適応を決定します。  放射線療法や薬物療法を中断、または延期することは現時点では推奨されません。しかし、重篤な副作用が生じた場合は、免疫機能の低下を考慮し、一時的な延期も止むを得ない場合があります。免疫機能低下は、COVID-19を含む感染症の罹患リスクが高くなることが知られており、また、感染した場合、重篤な合併症を発症するリスクが高くなる可能性があります。そのため、感染防御が極めて重要です。
以下具体的に示します。
①SARS-CoV-2陽性症例
・COVID-19の治療が最優先される。陰性化後、治療開始または再開を考慮するとともに代替医療も含め治療方針を再度決定する。
②SARS-CoV-2陰性症例
・通常通りの加療を行う。通常の薬物療法、放射線療法の副作用対策を行う。
③ SARS-CoV-2不明(未検査)症例
・可能であればPCR検査、胸部CT検査を行い、その結果に応じた治療方針となる。検査が不可能である場合は、通常の薬物療法、放射線療法の副作用対策を十分に行ったうえで、他の臨床所見、検査所見も考慮し総合的に判断する。しかし、基本的には放射線療法  や薬物療法を中断、または延期は推奨されない。
また、さらに再発転移口腔扁平上皮がんで用いられる免疫チェックポイント阻害薬は、重篤な免疫関連有害事象を起こす可能性があることが報告されており、各患者ごとの病状を考え、リスクとベネフィットを考慮したうえで治療を行うことが重要です。特に有害事象として間質性肺炎が生じた場合は、新型コロナ肺炎が重篤化する危険性が高いことが考えられる。

3)一次治療終了後の経過観察や定期検査については、どのように対応したらよいでしょうか?

口腔がん治療後の再発・転移率は、24~48%と報告され、そのうち75%以上は2年以内に認められていることが示されており、特に治療後2年以内は厳重な経過観察が必要です。そのため、口腔癌診療ガイドライン(2019年版)に記載があるように、治療後1年以内は最低月1回(できれば月2回)、1~2年では月1回、2~3年では2か月に1回、3~4年では  3か月に1回、4~5年では4か月に1回、5年以降は個々の場合によって6か月に1回  程度の診察が勧められ、レントゲン検査、超音波検査、CT検査、MRI検査、PET検査などが病状に応じて行われます。しかし、COVID-19蔓延時においては、患者へのリスクが最小限に抑えられるのであれば、前述の通院間隔を念頭において、通常より延長するなどが推奨されます。定期的な検査については、患者の治療経過や病状を十分に勘案したうえで決定します。病状が安定した患者には電話連絡による院外処方箋の交付も可能です。

関連情報
1) https://www.cancer.net/
2) AO CMF International Task Force Recommendations on Best Practices
for Maxillofacial Procedures during COVID-19 Pandemic
3)nt J Oral Sci 2020;12:8 Published online 2020 Feb 24. doi: 10.1038/s41368-020-0074-x
4)J Maxillofac Oral Surg. 2020 Apr 11 : 1-3. Maxillofacial surgery and COVID-19, The Pandemic!!
5)日本外科学会HP https://www.jssoc.or.jp/aboutus/coronavirus/info20200402.html
6)口腔癌診療ガイドライン2019年版
7)日本口腔外科学会HP https://www.jsoms.or.jp/
8)日本耳鼻咽喉科学会HP http://www.jibika.or.jp/
9)厚生労働省Q&A
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/
dengue_fever_qa_00004.html
10)厚労省
「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)診療の手引き・第1版」https://www.mhlw.go.jp/content/000609467.pdf
11)国立感染症研究所
「新型コロナウイルス(2019-nCoV)関連情報ページ」https://www.niid.go.jp/niid/ja/diseases/ka/corona-virus/2019-ncov.html

Ⅸ.泌尿器がん
 

 以下の4つの泌尿器科領域のがん(前立腺がん、腎臓がん、膀胱がん、腎盂・尿管がん)に対する指針は全体として
EAU Guidelines Office Rapid Reaction Group: An organisation-wide collaborative effort to adapt the EAU guidelines recommendations to the COVID era https://uroweb.org/wp-content/uploads/Combined-oncology-COVID-19-recommendations.pdf を参考にしました。

①前立腺がん

1)低リスク前立腺がんの治療はどのように対応するのが良いでしょうか?

 低リスク前立腺がんは、監視療法の試験成績からもわかるように、数年の治療介入の遅れが治療成績の悪化につながる危険性が低いと考えられます1)-3)。後ろ向き非介入研究のシステマティックレビューでも、低リスク前立腺がんに対する根治治療の遅れは、治療成績に影響しないことが報告されています4)。したがって、低リスクの前立腺がんに対しては、監視療法が推奨されます。また、根治療法を行う場合においても、パンデミックが終息するまで延期することが望ましいと思われます。

2)中間リスクおよび高リスクの前立腺がんの治療はどのように対応するのが良いでしょうか?

 後ろ向き非介入研究のシステマティックレビューにおいて、中間リスクや高リスクの前立腺がんに対する根治治療の遅れは、治療成績に影響する可能性があることが報告されています4)。しかしながら、それらの研究の多くでは、診断から3か月から6か月の治療介入の遅れは治療成績に影響しないことが示唆されています。一方、高リスク群における6か月ないしは12か月以上の治療介入の遅れは、生化学的再発率の増加と関係しているという報告があります5),6)。したがって、中間リスクおよび高リスクの前立腺がんに対して、3か月から6か月程度の治療介入の遅れは許容されるかもしれませんが、それ以上の延期は治療成績の悪化につながる可能性があります。術前ホルモン療法に関しては、即時根治治療と比較した場合の意義は明確ではありませんが7)、根治手術を延期する場合、患者さんが希望される際にはその適応について考慮して下さい。 放射線治療においては、中間リスクおよび高リスクの前立腺がんに対して、ホルモン療法による補助療法を行うのが標準的です。TROG96.01では、治療前のホルモン療法の期間の比較を行ったところ、3か月と比べ6か月の方が良好な予後を示しました8)。適切な時期に放射線治療が施行困難な場合には、放射線治療が可能となるまでホルモン療法を継続することで治療遅延の悪影響を回避できるかもしれません。また、術後の補助放射線療法については、RAVES試験やRADICALS試験の結果から、補助療法ではなく、生化学的再発時に救済治療として施行するのが適当と考えられます9),10)。

3)局所進行前立腺がんの治療はどのように対応するのが良いでしょうか?

局所進行前立腺がんは治療介入の遅れが生命予後の悪化につながる可能性が高いと考えられます。したがって、海外のガイドラインでも6週間以上の治療遅延は避けるべきとされています11)。

1) Choo R, et al. Feasibility study: watchful waiting for localized low to intermediate grade prostate carcinoma with selective delayed intervention based on prostate specific antigen, histological and/or clinical progression. The Journal of Urology. 2002;167(4):1664-1669.
2) Hamdy FC, et al. 10-year outcomes after monitoring, surgery, or radiotherapy for localized prostate cancer. N Engl J Med. 2016.
3) Neal DE, et al. Ten-year mortality, disease progression, and treatment-related side effects in men with localized prostate cancer from the ProtecT randomised 854 controlled trial according to treatment received. European Urology. 2020;77(3):320-330.
4) van den Bergh RC, et al. Timing of curative treatment for prostate cancer: a systematic review. European Urology. 2013;64(2):204-215.
5) Fossati N, et al. Evaluating the effect of time from prostate cancer diagnosis to radical prostatectomy on cancer control: Can surgery be postponed safely- Urologic Oncology. 2017;35(4):150 e159-150 e115.
6) Westerman ME, et al. Impact of time from biopsy to surgery on complications, functional and oncologic outcomes following radical prostatectomy. Int Braz J Urol. 2019;45(3):468-477.
7) Kumar S, et al. Neo-adjuvant and adjuvant hormone therapy for localized and locally advanced prostate cancer. Cochrane Database Syst Rev. 2006(4):CD006019.
8) Denham JW, et al. Short-term neoadjuvant androgen deprivation and radiotherapy for locally advanced prostate cancer: 10-year data from the TROG 96.01 randomised trial. Lancet Oncol. 2011;12(5):451-459.
9) Kneebone A, et al. A Phase III multi-centre randomised trial comparing adjuvant versus early salvage radiotherapy following radical prostatectomy: Results of the TROG 08.03 and ANZUP “RAVES” trial. Int J Rad Oncol Biol Phys. 2019;105(1):S37-S38.
10) Parker C, et al. Timing of radiotherapy (RT) after radical prostatectomy (RP): First results from the RADICALS RT randomised controlled trial (RCT) [NCT00541047]. Annals of Oncology. 2019;30(Suppl_5):v851-v934.
11) https://els-jbs-prod-cdn.jbs.elsevierhealth.com/pb/assets/raw/Health%20Advance/journals/
eururo/EURUROL-D-20-00649.pdf

②腎臓がん

1)cT1a腎がん(小径腎がん)の治療は延期できるでしょうか?

延期すべきです。
[解説]
腫瘍径4cm以下の小径腎がん(SRM)の自然史の観察結果の集積によって、SRMに対する治療選択肢として監視療法(AS)が成立することが明らかになってきました1)。
McIntoshらは、SRMにおいて、ASを開始してから1年後の腫瘍径の平均増加率の中央値は1.9 mm /年、1年後の治療介入の発生率は9%、2年で22%、3年で29%、4年で35%、5年で42%であり、治療介入の時期はその後の全生存割合(OS)に影響を及ばさなかったと報告しています2)。Pierorazioらは(観察期間中央値:2.1年間)、AS群と即時治療介入群の5年間のがん特異的生存率(CSS)に差はなかったと報告しています3)。
COVID-19パンデミックが落ち着くまでは、手術を延期すべきと考えられます。
1) 腎癌診療ガイドライン2017年度版、日本泌尿器科学会編
2) McIntosh et al. Active Surveillance for localized renal masses: Tumor growth, delayed intervention rates, and >5-yr clinical outcomes. European Urology. 2018;74(2):157-164.
3) Pierorazio PM, et al. Five-year analysis of a multi-institutional prospective clinical trial of delayed intervention and surveillance for small renal masses: the DISSRM registry. European Urology. 2015;68(3):408-415.

2)cT1b/cT2腎がんの手術治療は延期できるでしょうか?

3~6か月の手術延期は患者に悪影響を与えない可能性があります。
[解説]
Manoらは、腫瘍径が4 cmを超えるT1b腎がん患者のうち、根治的腎摘除術または腎部分切除術を受けた1278人の手術待機時間とその後の治療成績の関係を報告しています。その報告によると、全患者のうち、267人(21%)の手術待機時間は3か月以上で、82人の患者(6%)は手術待機時間が6か月以上であったが、手術待機時間の違いはCSSとは関連していなかったという結果でした1)。
Mehrazinらは、比較的大きな腎がん(平均腫瘍サイズ6.4 +/- 4.4cm; 64.7%-pT1bおよび49.0%-pT2)に対して根治的腎摘除術または腎部分切除を受けた患者722人のうち、64.1%は最初の来院から30日以内に手術を受け、3か月以内に手術を受けた患者は94.3%(残りの5.7%の患者は3か月以降)であり、最初の来院から1か月で手術を受けた患者群、2か月で手術を受けた患者群、3か月で手術を受けた患者群、また6か月で手術を受けた患者群の間でOSに有意な差はなかったと報告しています2)。 COVID-19パンデミックが落ち着くまでの、3~6か月の手術延期は患者様に悪影響を与えない可能性があると思われます。
1) Mano R, et al. The effect of delaying nephrectomy on oncologic outcomes in patients with renal tumors greater than 4cm. Urologic Oncology. 2016;34(5):239 e231-238.
2) Mehrazin R, et al. Growth kinetics and short-term outcomes of cT1b and cT2 renal masses under active surveillance. The Journal of Urology. 2014;192(3):659-664.

3)cT3腎がんの手術治療は延期できるでしょうか?

延期すべきではありません。
[解説]
cT3以上の腎腫瘍のある患者、特に腎静脈または下大静脈(IVC)腫瘍塞栓を有する患者の手術を遅らせることの安全性に関する報告は少ないです。これらの患者は、治療を遅らせることにより、局所進行し手術不可になる可能性や、腫瘍からの出血やIVC閉塞等の重大な合併症が起こる可能性があるため、手術は延期すべきではないと考えられます。

4)転移性腎がん患者における腫瘍減量を目的とする腎摘除術(Cytoreductive nephrectomy:CN)は延期できるでしょうか?

転移性腎がん患者に対するCNは延期しても良いと考えられます。
[解説]
SURTIME試験にて転移性腎がん患者に対する待機的腎摘除術の有用性が検討されています1)。転移性淡明細胞型腎細胞がん99例が腎摘除術後にスニチニブを投与(即時腎摘 除)する群と、スニチニブ投与後に腎摘除術を施行(待機的腎摘除)する群の2群に振り 分けられました。結果、28週目の無増悪生存率は即時腎摘除群で42%、待機的腎摘除群で43%であり、統計的な有意差は認めず(P = 0.61)、副次項目であるOS中央値は待機的腎摘除群が32.4か月と即時腎摘除群の15.0か月でした。
COVID-19パンデミック状況下では、全身化学療法を先行することでCNを延期しても、患者様に悪影響を与えない可能性があると思われます。
1) Bex A, et al. Comparison of immediate vs deferred cytoreductive nephrectomy in patients with synchronous metastatic renal cell carcinoma receiving sunitinib: The SURTIME randomized clinical trial. JAMA Oncol. 2018.

③膀胱がん

1)膀胱鏡検査にて膀胱腫瘍がみつかりましたが、経尿道的膀胱腫瘍切除術(TURBT)を延期してもよいでしょうか?

肉眼的血尿があった場合、高リスク筋層非浸潤性膀胱がんが疑われる場合やその再発などでは、概ね6週以内のTURBTを推奨します。一方、上記でなければ3~6ヶ月の延期は許容されると思われます。

2)低リスク及び中リスク筋層非浸潤性膀胱がんの術後経過観察で、膀胱鏡検査を延期することは可能でしょうか?また、小さな再発腫瘍に対しTURBTを延期してもよいでしょうか?

低リスク及び中リスク筋層非浸潤性膀胱がん1)の場合、長期の疾患特異的死亡率は低いため2),3) 、膀胱鏡検査などの定期的検査を延期することは許容されます。また、経過観察にて1cm以下の単発の再発であれば、TURBTを6か月以内程度延期は許容されると思われます。ただし、肉眼的血尿などの症状が出現した場合には再評価が必要です。
1) 日本泌尿器科学会:胱癌診療ガイドライン2019年版、医学図書出版、東京、2019
2) Lopez-Beltran A, et al. Non-invasive urothelial neoplasms: according to the most recent WHO classification. European Urology. 2004;46(2):170-176.
3) Soloway MS, et al. Expectant management of small, recurrent, noninvasive papillary bladder tumors. The Journal of Urology. 2003;170(2 Pt 1):438- 441.

3)すべての高リスク筋層非浸潤性膀胱がんに対して2nd TURが推奨されますか?

高リスク筋層非浸潤性膀胱がん1)の場合、2nd TURを行うことで初回TURにてTaで8%、T1で32%に筋層浸潤がんが検出されると報告されており2)、基本的には2nd TURが推奨されます。中でも、多発するT1 high gradeや初回TURBTで筋層が採取されていない場合 は2nd TURの中止・延期は推奨されません。一方、COVID-19パンデミックの状況次第では、筋層が採取されており肉眼的に完全に切除された症例において、2nd TURを行わずBCG膀胱内注入療法を導入することは選択肢となりえます。
1) 日本泌尿器科学会:胱癌診療ガイドライン2019年版、医学図書出版、東京、2019
2) Babjuk M, et al. European Association of Urology Guidelines on Non771 muscle-invasive Bladder Cancer (TaT1 and Carcinoma In Situ) - 2019 Update. European Urology. 2019;76(5):639-657.

4)高リスク筋層非浸潤性膀胱がんに対してBCG膀胱内注入療法の中止・延期は許容されますか?

高リスク筋層非浸潤性膀胱がんの場合、15-40%に進展を認め、10-20%でがん死すると報告されており1),2)、BCG注入療法の中止は推奨されません。BCG膀胱内注入療法においては、一般的に導入療法後の維持注入が推奨されていますが、中でも最も効果に関係するのは導入療法6回注入と治療開始後3か月に行う初回維持療法3回注入(6+3)と考えられ3)、COVID-19パンデミックの状況次第ではその後の維持注入を中止することは選択肢となりえます。
1) Klaassen Z, et al. Treatment strategy for newly diagnosed T1 High-grade bladder urothelial carcinoma: New insights and updated recommendations. European Urology. 2018;74(5):597-608.
2) Thomas F, at al. Comparative outcomes of primary, recurrent, and progressive high-risk non-muscle-invasive bladder cancer. European Urology. 2013;63(1):145-154.
3) Kamat et al. Society for immunotherapy of cancer consensus statement on immunotherapy for the treatment of bladder carcinoma. J Immunother Cancer. 2017;5(1):68.

5)筋層浸潤性膀胱がんの診断にて膀胱全摘除術を検討していますが、手術延期は許容されますか?

筋層浸潤性膀胱がんに対する膀胱全摘除術においては、術前化学療法を行うことで予後が改善することが知られています。よって、化学療法の骨髄抑制による感染リスク上昇が治療効果を上回ると予想される場合以外は、基本的に術前化学療法を行うことが推奨されます。一方、術前化学療法を行わない場合、メタアナリシスの結果から筋層浸潤がんの診断から膀胱全摘除術までの期間が3か月を超えると予後に悪影響を与えることが示唆されています1)。よって、3か月以内の膀胱全摘除術延期は許容されると思われます。
1) Russell B, et al. A systematic review and meta-analysis of delay in radical cystectomy and the effect on survival in bladder cancer patients. Eur Urol Oncol.2020 ; 3(2): 239-249/p> ④腎盂・尿管がん

1)限局性上部尿路がんの診断となりましたが、手術の延期はどの程度許容できますか?

High gradeの上部尿路がんに対する標準治療は腎尿管全摘除術ですが、これまでの報告では3か月以内の手術遅延は病理学的検査結果の悪化はみられるものの予後とは相関がみられなかったとしており1),2)、3か月以内の延期は許容されると思われます。
1) Waldert M, et al. A delay in radical nephroureterectomy can lead to upstaging. BJU international. 2010;105(6):812-817.
2) Sundi D, et al. Upper tract urothelial carcinoma: impact of time to surgery. Urologic Oncology. 2012;30(3):266-272.

Ⅹ.婦人科がん
 

COVID-19流行期の婦人科がん治療の考え方は以下の通りです:
1)流行の程度や地域・施設の条件により選択しうる治療法は異なります。
2)病態を重症(生命にかかわる、緊急性がある)、中等症(大幅な遅延は生命予後に関わる)、軽症(一定期間の治療延期や別の治療選択が予後を大きく変えない)に分類して治療の延期や治療法の変更を考慮すべきです。
3)同様の効果が期待できる治療であれば、通院や入院が最小限となる治療法を選ぶことを考慮すべきです。
4)経過観察や投薬のみの場合は電話診療や遠隔診療を活用することも考慮すべきです。
※以下に記すことは、全国的にCOVID-19感染蔓延状況となった場合の対応となります。地域の感染状況や、各医療機関の院内の医療体制は、それぞれの病院で異なります。他院へ転院して標準的な治療を受けることも考えられますので、患者と相談しながら臨機応変に対応頂くことをお勧めします。

①子宮頸がん

1)頸部細胞診の異常があった場合、直ちに精査・加療すべきか?

通常はすぐに精密検査を施行すべきですが、細胞診異常の程度により一定期間、精密検査を延期できる場合があります。ASC-US(意義不明な異常)やLSIL(軽度異形成)の場合は6か月程度、ASC-H(中等度異形成以上が否定できない)やHSIL(中等度異形成以上)、AGC(腺系の異常)やAIS(上皮内腺癌)の場合は3か月程度を上限に精密検査を施行すべきです。浸潤がんが疑われる場合は早期の確定診断と加療が必要です。

2)初期浸潤がんの場合、直ちに治療を開始すべきか?

CIN病変(異形成)では一定期間(最大3か月)治療を延期して厳重に経過観察を行うことが可能です。それ以外の場合は原則として早期治療が必要となりますが、子宮頸部円錐切除術等で完全に切除されたIA1期子宮頸がんの場合、手術の緊急性は低くなります。IA1-IA2期では最大2か月までの治療延期が考慮されますが、妊孕性温存の必要性など個々の患者の条件も加味して判断される必要があります。IB期・II期病変では最大でも1~2か月 までは延期が可能ですが、同時化学放射線療法等の別の治療法を行うことも考慮されます。同時化学放射線療法を選択する場合、極力、遅延なく施行すべきですが、通常よりも治療期間を短くした治療計画で治療を行うことも考慮されます。

3)子宮頸がんで術後治療が必要な場合、治療の延期は可能か?

再発低リスク群では、COVID-19感染が蔓延中の術後治療(術後補助療法)を延期することも考慮できます。再発中リスク群では2か月までの術後補助療法を延期することも考慮されますが、再発高リスク群では遅延なく術後補助療法を行うべきです。

4)子宮頸がん治療後の定期受診の延期可能か?

再発リスクに応じて治療後の定期受診の延期が考慮できます。受診の頻度や間隔などは病状やリスクに応じて患者と相談しながら適宜判断下さい。

②子宮体がん

1)子宮内膜異型増殖症・早期子宮体がんの場合、黄体ホルモン治療はどのように行うべきか?

子宮内膜異型増殖症ないし子宮筋層浸潤の無いIA期子宮体がん(高分化型類内膜癌)と診断され、かつ子宮の温存を希望する患者に対しては、一般的に高用量メドロプロゲステロンを用いた黄体ホルモン治療を行うことが考慮されます。COVID-19感染蔓延下の状況では、腫瘍の進行が緩徐だと予想され、多量の出血などの自覚症状が無い場合などは患者と相談しながら適宜受診間隔の調整を行うことも考慮されます。

2)早期子宮体がんの場合、手術はいつまで延期可能か?

多量の出血等の症状がない場合は、最大2か月までの延期が考慮されます。その間、黄体ホルモン治療を行うかどうかは、治療の感受性を考慮の上、患者と相談しながら判断下さい。

3)子宮体がんの術後治療が必要な場合、延期可能か?

再発低リスク群では、COVID-19感染が蔓延中の補助療法を延期することも考慮できます。再発中リスク群以上ではできるだけ遅延なく補助療法を行うべきですが、通院・入院が少ない治療法が考慮されます。すなわち放射線治療の場合は小線源療法の選択や分割照射回数の減少、化学療法の場合はpaclitaxel +carboplatinなどを選択することも可能です。患者と相談しながら適宜判断下さい。

4)進行子宮体がんや再発子宮体がんの治療はどうすべきか?

原則的には遅延なく行うべきです。できるだけ通院・入院が少ない治療法を選択することも考慮されます。効果があると考えられる場合は黄体ホルモン治療も考慮されます。病状に応じて患者と相談しながら適宜判断下さい。

5)子宮体がんの治療後の定期受診はどうすべきか?

再発リスクに応じて治療後の定期受診の延期が考慮できます。受診の頻度や間隔などは病状やリスクに応じて患者と相談しながら適宜判断下さい。

③卵巣がん

1)付属器(卵巣・卵管)切除等で主病変を摘出した後に初期卵巣がんと診断されたが、進行期を決定するために追加で手術を行うべきか?

進行期を決めるためのステージング手術は最大2か月までを目安に延期されることが考慮されます。

2)進行卵巣がんの場合にどのような治療を行うべきか?

感染蔓延による医療情勢の逼迫により、術後集中治療が必要な広範な手術が施行困難な場合は、平時であれば手術先行を選択する患者に対しても、術前化学療法を選択することが考慮されます。
化学療法を先行して行うこと(最大6サイクル)で手術を延期できる可能性がありますが、これに関しては治療効果を見ながら慎重に検討する必要があります。

3)卵巣がんに対する化学療法はどう行うべきか?

効果が同等と考えられる薬剤がある場合は、より入院日数が少ない治療、通院回数が少ない治療、あるいは骨髄抑制をきたしにくい治療が推奨されます。 組織型も勘案し、化学療法の効果と来院・治療のリスクを勘案して治療の是非を判断することになります。 逼迫した医療情勢となった場合、優先順位の高い治療としては、進行癌における術前化学療法、BRCA変異陽性者へのPARP阻害薬、胚細胞腫瘍に対する化学療法などが挙げられます。

4)卵巣がんの治療後の定期受診はどう行うべきか?

再発リスクに応じて治療後の定期受診の延期が考慮できます。

参考文献
1) COVID-19 and gynecological cancer: a review of the published guidelines. Int J Gynecol Cancer 2020;0:1-10. doi:10.1136/ijgc-2020-001634
2) ESMO management and treatment adapted recommendations in the COVID-19 era: gynaecological malignancies. ESMO Open. 2020 Jul;5(Suppl 3):e000827. doi: 10.1136/esmoopen-2020-000827.
3) Alternative management for gynecological cancer care during the COVID‐2019 pandemic: A Latin American survey. Int J Gynecol Obstet 2020; 150: 368-378
4) Recommendations for the surgical management of gynecological cancers during the COVID-19 pandemic - FRANCOGYN group for the CNGOF/J Gynecol Obstet Hum Reprod 49 (2020) 101729
5) Wang Y, Zhang S. Recommendations on management of gynecological malignancies during the COVID-19 pandemic: perspectives from Chinese gynecological oncologists. 2020;31(4):e68.
6) Uwins C, Bhandoria GP. COVID-19 and gynecological cancer: a review of the published guidelines. 2020.

Ⅺ. 乳がん

日本乳癌学会より作成されている「COVID-19 に伴う乳癌診療トリアージについて」をご参照下さい。

1)COVID-19蔓延の有無に関わらず、早急に手術すべき乳腺診療は何でしょうか?

術前化学療法を選択しない場合のHER2陽性乳がんまたはトリプルネガティブ乳がん、術前の化学療法または内分泌療法が奏効せずに進行する乳がん、肉腫など非上皮性腫瘍、急速に増大し悪性を疑う葉状腫瘍、皮弁除去や排膿ドレナージを要する広範な皮弁壊死や創部感染、排膿ドレナージを要する化膿性乳腺炎が該当します。

2)COVID-19蔓延の有無に関わらず、予定通り手術すべき乳腺診療は何でしょうか?

ホルモン受容体陽性HER2陰性乳がん、術前化学療法後のHER2陽性乳がんまたはトリプルネガティブ乳がんが該当します。

3)COVID-19蔓延の場合、待機手術が可能な乳腺診療は何でしょうか?

組織診断で非浸潤がんを疑う症例(Paget病を含む)、画像診断で良性腫瘍を疑う症例、乳がん手術における同時乳房再建術、インプラントまたは自家組織による乳房再建術が該当します。
http://jbcs.gr.jp/member/wp-content/uploads/2020/11/JBCS_triage20201030-3.pdf

<作成>

がん関連3学会(日本癌学会、日本癌治療学会、日本臨床腫瘍学会)合同連携委員会 新型コロナウイルス(COVID-19)対策ワーキンググループ(WG)

■WG長
寺嶋 毅(東京歯科大学市川総合病院 呼吸器内科)
■WGメンバー
【日本癌治療学会】
江藤正俊(九州大学大学院医学研究院 泌尿器科学分野)
掛地吉弘(神戸大学大学院医学研究科 食道胃腸外科)
調 憲(群馬大学大学院医学系研究科 総合外科学講座肝胆膵外科分野)
西村恭昌(近畿大学医学部 放射線腫瘍学部門)
藤原俊義(岡山大学大学院医歯薬学総合研究科 消化器・腫瘍外科学)
【日本癌学会】
清野 透(国立がん研究センター 先端医療開発センター)
高山智子(国立がんセンターがん対策情報センター がん情報提供部)
松尾恵太郎(愛知県がんセンター研究所 がん予防研究分野)
松岡雅雄(熊本大学生命科学研究部 血液内科)
三森功士(九州大学病院別府病院 外科)
【日本臨床腫瘍学会】
市原英基(岡山大学病院 呼吸器・アレルギー内科)
小林信明(横浜市立大学附属病院 呼吸器内科)
小山泰司(神戸大学医学部付属病院 腫瘍・血液内科) 姫路大輔(県立宮崎病院 内科)

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