新型コロナウイルス感染症とがん診療について:医療従事者向け Q&A【3】|学会概要|日本癌学会

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新型コロナウイルス感染症とがん診療について:医療従事者向け Q&A【3】

最終更新日:2023年4月3日 

新型コロナウイルス感染症とがん診療について:医療従事者向け Q&A【1】
新型コロナウイルス感染症とがん診療について:医療従事者向け Q&A【2】
新型コロナウイルス感染症とがん診療について:医療従事者向け Q&A【3】
新型コロナウイルス感染症とがん診療について:医療従事者向け Q&A【4】

【臓器別】
Ⅰ. 血液腫瘍

①血液悪性腫瘍

血液悪性腫瘍は、迅速な診断と治療を要する疾患も多い。そのため、治療を待機することが難しい場面も多く、COVID-19蔓延期においては常に難しい判断が求められます。

1)血液悪性腫瘍に罹患しているとCOVID-19の重症化リスクは上昇しますか?

血液悪性腫瘍患者におけるCOVID-19は徐々に知見が集積されてきています。
多くの後方視的検討では、死亡率14-61%と高い死亡率を認めます。3377名のデータを使ったメタ解析により成人では34%、小児では4%の死亡率が報告されています。
統計学的には固形腫瘍患者群と有意差が見られないという報告がありますが、健常人と比較して高い傾向があります。
活動性のある悪性腫瘍患者全体では、30日死亡率のHR 5.20 [95%CI : 2.77-9.77]と報告されていますが、治療中の血液悪性腫瘍患者についての検討では、重症化のリスクも高く(HR 2.49, [95%CI: 1.35-4.67])、本邦の報告含めて50-61%と高い死亡率を認めています1)-4)
これらの検討から現在治療を行なっている、または必要とする血液悪性腫瘍患者ではCOVID-19の重症化リスクが高いことが示唆されています。そのため、流行期または直近で危惧される状況では感染予防が非常に重要です。
COVID-19蔓延期において、新規診断の数日以内に強力化学療法を行う必要がある場合には治療開始前のPCR検査スクリーニングを考慮するという意見もありますが、施設ごとに流行状況に応じた検討が必要です。
寛解が得られている患者でCOVID-19に感染した場合にはウイルスがクリアランスされるまで次治療開始延期を考慮します。
ウイルスのクリアランスも血液悪性腫瘍患者では遷延することが報告されています。感染性についての検討は少ないものの注意を要します5)6)

②血液悪性腫瘍に対する治療とCOVID-19について

1)急性骨髄性白血病の治療はどうするべきでしょうか?

緊急の治療が必要な病態であることが多く、治療導入を遅らせるべきでありません。寛解が得られるまでの治療は通常通り行うことを推奨します。一方で、現在治療を行なっている状況で寛解が得られている場合、7-14日以内の治療延期は予後に影響しないとの報告がありますので、地域の状況に合わせて治療スケジュールを調節することも検討されます。
FLT3阻害薬のギルテリチニブは、発熱性好中球減少症(Febrile neutropenia: FN)が45.9%で見られるため使用する場合には十分な説明と対応の準備が必要です。その他の分子標的薬とCOVID-19のリスク、また投与間隔の調節についての検討はないものの、流行状況と病勢に応じて症例毎に検討されます。

2)急性リンパ球性白血病の治療はどうするべきでしょうか?

緊急で治療が必要な病態であることが多く、治療導入を遅らせることを推奨しません。寛解が得られるまでの治療を通常通り行うことを推奨します。

3)慢性骨髄性白血病(CML)の治療はどうするべきでしょうか?

新規診断のCMLへの治療開始延期は推奨されません。チロシンキナーゼ阻害薬(TKI)による治療開始後は血球減少のリスクがあるため、感染予防は十分に行います。
治療開始後、MR4が一定期間以上得られている患者では、TKIの中止も考慮されます。しかし、一方では中止後の定期的モニタリングも必須ですので流行状況などを考慮して検討されます。
また、TKI内服中の方がCOVID-19に罹患した場合、軽症例ではTKIを中止する必要はなく重症例ではTKIを一時的に中止するかどうかは症例毎に検討を要します。

4)慢性リンパ性白血病の治療はどうするべきでしょうか?

一般的に、CLL患者は非常に免疫が低下しており感染症の高リスクです。 適切な感染予防と、定期的な免疫グロブリンの補充が必要ですが、流行期では頻回の外来通院がリスクになる可能性を考慮して、補充間隔の調節も検討されます。
有症状のCLL患者では治療開始を検討します。その中では経口薬治療も検討されます。イブルチニブがCOVID-19に効果を示す可能性が示唆されていますが、それを根拠にイブルチニブを常に選択、またCLLのCOVID-19患者に投与することはデータが不十分であり今後の検討が必要です。

5)アグレッシブ リンパ腫の治療はどうするべきでしょうか?

新規診断例においては、早急な治療開始が必要であることが多いため治療開始を延期することは推奨されません。COVID-19流行期において、通院で化学療法を行うかどうかについては治療強度とのバランスで検討します。
限局型においては、流行状況次第では通院回数を減少するため放射線治療の省略も検討されます。

6)ホジキンリンパ腫の治療はどうするべきでしょうか?

治癒を期待して治療するため、治療導入の時期を逃さないことが重要です。
ブレオマイシンを使用する場合には薬剤性肺臓炎のリスクを踏まえて選択することを推奨します。
ニボルマブを使用する場合、免疫チェックポイント阻害薬がCOVID-19重症化のリスクであるかどうかは意見が別れているところであり、個別に判断を行うことを推奨します。

7)インドレント 悪性リンパ腫の治療はどうするべきでしょうか?

有症状患者では治療開始を検討します。流行期において、無症状患者や治療開始をするか検討を要する患者(例:GELF criteriaにあてはまるものの、無症状の場合)では、治療開始のリスク・ベネフィットを十分に検討した上で、慎重な経過観察も考慮されます。すでに治療を開始している患者では、病勢次第では、より毒性が低い治療レジメンへの変更も検討されます。リツキシマブのメンテナンス治療も病勢次第では中止や間隔の延長も検討されます。
流行期における放射線治療は延期や照射量の調節を放射線腫瘍医と協議します。

8)多発性骨髄腫の治療はどうするべきでしょうか?

新規に診断された活動性の有症状の患者では、治療開始の延期は推奨されません。一方で、流行状況に応じて治療に伴う有害事象(骨髄抑制、薬剤性肺障害含む)のリスクと通院頻度のバランスに応じて、ダラムツズマブの有無を含めた治療レジメンを検討します。
自己幹細胞移植は流行状況次第では延期を検討されます。

9)骨髄移植の方針はどのようにするべきでしょうか?

COVID-19蔓延期においては、ドナーの健康管理も重要です。
陽性患者では最低2週間~1ヶ月延期することが望ましい。幹細胞源の凍結保存、凍結処理の上での移植処置開始も検討されます7)

10)CAR-T療法は行うべきでしょうか?

COVID-19流行期におけるCAR-T療法の報告はなく、個別症例において十分に適応を検討します。

参考文献

1) He W, et al. COVID-19 in persons with haematological cancers. Leukemia. 2020;34(6):1637-1645.
2) 日本血液学会HPより
http://www.jshem.or.jp/modules/news/index.php?content_id=95
3) Robilotti EV, et al. Determinants of COVID-19 disease severity in patients with cancer [published online ahead of print, 2020 Jun 24]. Nat Med. 2020;10.1038/s41591-020-0979-0.
4) Shah V, et al. Poor outcome and prolonged persistence of SARS-CoV-2 RNA in COVID-19 patients with haematological malignancies; King's College Hospital experience [published online ahead of print, 2020 Jun 11]. Br J Haematol. 2020;10.1111/bjh.16935.
5) Tepasse PR, et al. Persisting SARS-CoV-2 viraemia after rituximab therapy: two cases with fatal outcome and a review of the literature [published online ahead of print, 2020 Jun 1]. Br J Haematol. 2020;10.1111/bjh.16896.
6) 日本骨髄バンクHP:新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に関する情報一覧より
https://www.jmdp.or.jp/information/covid-19202036.html
その他
・ASH:COVID-19 and CLL: Frequently Asked Questionsより
https://www.hematology.org/covid-19/covid-19-and-cll
・EHA:Recommendations for specific hematologic malignanciesより
https://ehaweb.org/covid-19/covid-19-recommendations/recommendations-for-specific-hematologic-malignancies/
・Yahalom J, et al. ILROG emergency guidelines for radiation therapy of hematological malignancies during the COVID-19 pandemic. Blood. 2020;135(21):1829-1832.
・Ljungman P, et al. The challenge of COVID-19 and hematopoietic cell transplantation; EBMT recommendations for management of hematopoietic cell transplant recipients, their donors, and patients undergoing CAR T-cell therapy [published online ahead of print, 2020 May 13] [published correction appears in Bone Marrow Transplant. 2020 Jun 8;:]. Bone Marrow Transplant. 2020;1-6.

③HIV関連悪性腫瘍(Kaposi肉腫、Castleman病)におけるCOVID-19

HIV患者におけるCOVID-19については、CD4リンパ球数が500/μl以上の症例が主であり、多くはnon-HIV患者と死亡率は変わりないと報告されています1)-3)

1)Kaposi肉腫/HIV関連Castleman病において抗ウイルス薬以外の治療はどのようにするべきでしょうか?
Kaposi 肉腫やHIV関連Castleman病に対しては、ドキソルビシン内包リポソームを行うことが多いと思いますが、他の固形癌患者と比較して血球減少を認めやすいため、十分な感染予防が必要です。予防的G-CSFの併用も検討されます。 HIV関連Castleman病に対してはリツキシマブ(保険適応外)も検討される場合があります4)。リツキシマブ投与下でウイルスクリアランスの遷延、重症化が示唆される症例が報告されていますので、治療開始には十分な検討が必要です5)6)

2)HIV患者関連悪性腫瘍患者がCOVID-19に罹患した場合には、ARTを変更するべきでしょうか?
テノホビル/エムトリシタビン配合剤投与中の方でRisk低下が示唆されています8)。しかし、テノホビル/エムトリシタビン配合剤を予防内服している人でCOVID-19の増加が報告されており、テノホビル/エムトリシタビン配合剤の効果は確認されていません9)。HIV関連悪性腫瘍患者がCOVID-19に罹患した場合、ARTの継続や変更を検討する際には、感染症専門医にコンサルトすることを推奨します。

参考文献

1) Blanco JL, et al. COVID-19 in patients with HIV: clinical case series. Lancet HIV. 2020;7(5):e314-e316.
2) Vizcarra P, et al. Description of COVID-19 in HIV-infected individuals: a single-centre, prospective cohort [published online ahead of print, 2020 May 28]. Lancet HIV. 2020;S2352-3018(20)30164-8.
3) Hu Y, et al. Coinfection with HIV and SARS-CoV-2 in Wuhan, China: A 12-person case series [published online ahead of print, 2020 Jun 12]. J Acquir Immune Defic Syndr. 2020;10.1097/QAI.0000000000002424.
4) HIV感染症とその合併症 診断と治療ハンドブック HIV関連キャッスルマン病
http://hb.acc-info.jp/part2/no37.html
5) Tepasse PR, et al. Persisting SARS-CoV-2 viraemia after rituximab therapy: two cases with fatal outcome and a review of the literature [published online ahead of print, 2020 Jun 1]. Br J Haematol. 2020;10.1111/bjh.16896.
6) Guilpain P, et al. Rituximab for granulomatosis with polyangiitis in the pandemic of covid-19: lessons from a case with severe pneumonia [published online ahead of print, 2020 Apr 20]. Ann Rheum Dis. 2020;annrheumdis-2020-217549.
7) Cao B, et al. A Trial of Lopinavir-Ritonavir in Adults Hospitalized with Severe Covid-19. N Engl J Med. 2020;382(19):1787-1799.
8) Del Amo J, et al. Incidence and Severity of COVID-19 in HIV-Positive Persons Receiving Antiretroviral Therapy: A Cohort Study [published online ahead of print, 2020 Jun 26]. Ann Intern Med. 2020;10.7326/M20-3689.
9) Ayerdi O, et al. Preventive Efficacy of Tenofovir/Emtricitabine Against Severe Acute Respiratory Syndrome Coronavirus 2 Among Pre-Exposure Prophylaxis Users. Open Forum Infec Dis, 2020;7(11):ofaa455

Ⅱ. 肺がん

肺がんについては、本Q&A以外に日本肺癌学会よりCOVID-19 パンデミックにおける肺癌診療:Expert opinionも公表されており、そちらも診療方針を考える上で参考となります1)。
1) https://www.haigan.gr.jp/uploads/files/JLCS_COVID-19%20_%E3%82%B9%E3%83%86%E3%83%BC%E3%83%88%E3%83%
A1%E3%83%B3%E3%83%88_V1_1_20200723.pdf

1)COVID流行期の肺がん手術に対して基本的にどのように考えれば良いですか?

一般に肺がん患者には喫煙者が多く、また間質性肺炎や肺気腫を併存している患者さんが多くおられます。肺がんの手術ではこういう患者さんから肺を切除することになるので、他のがんの手術に比べてリスクは高いと思われます。実際、武漢の同済病院からの報告によると胸部外科手術後に発症した11名のCOVID-19の死亡率は27%1)、武漢大学では胸腔鏡下肺切除3名のうち2名が死亡した2)と報告されています。従ってCOVID-19 が確定している患者の手術はよほどの緊急性がない限り行うべきではありません。また、COVID-19潜伏期に手術を行うことを可及的に回避する方策をとることが重要になります。そのためには手術適応をCOVID-19の蔓延度と手術の必要性のバランスで考えることが必要です。

米国外科学会の待機的手術トリアージ ガイドライン3)によると、病院のCOVID-19蔓延程度を三つのフェーズに分類しています。
フェーズI: 準緊急期COVID-19患者の急速な増加が認められず、病院資源が保たれ、ICUでの人工呼吸器管理が可能な時期
フェーズII: 緊急期COVID患者が急増し、ICUの人工呼吸器に制限がある、手術室備品が不足している時期
フェーズIII: 病院資源が全てCOVID-19 対策に向けられている、ICUの人工呼吸器使用不能、手術室備品が枯渇する時期
そして、フェーズIは三ヶ月以内、フェーズIIは数日以内、フェーズIIIでは数時間以内に手術をおこなわなければ生存率が低下するもの以外の手術を制限するということが提案されています。実際の現場では同じフェーズIIといってもいろいろな場合があるでしょうから、最終的は個別に手術をしないリスク、行うリスクをよく吟味することが必要になります。
肺がんの手術に当てはめてみると、フェーズが進むに従って手術を延期する順番は「悪性度の低い癌」、「進行がんであるが代替治療が存在し、手術を行っても予後があまり期待できない場合」、そして最後まで手術の可能性を追求すべきなのが「進行がんであり手術が唯一治癒のチャンスをもたらす患者」あるいは「外科的処置によってのみ救命可能である患者」、ということになります。
すでに肺がん手術に関するガイドラインはAmerican College of Surgeons(ACS) 3), Thoracic Surgery Outcomes Research Network4), European Society of Medical Oncology(ESMO)5)、American Society for Clinical Oncology(ASCO)6), International Association for Study of Lung Cancer(IASLC) 7), UpToDate8等よりガイドラインが発表されています。以下はわが国の状況も鑑みてそれらの情報をまとめたものです。

1) Peng S, Huang L, Zhao B, et al: Clinical course of coronavirus disease 2019 in 11 patients after thoracic surgery and challenges in diagnosis. J Thorac Cardiovasc Surg, 2020, DOI 10.1016/j.jtcvs.2020.04.005
2) Lei S, Jiang F, Su W, et al: Clinical characteristics and outcomes of patients undergoing surgeries during the incubation period of COVID-19 infection. EClinicalMedicine:100331, 2020, DOI 10.1016/j.eclinm.2020.100331
3) American College of Surgeons: ACS:COVID19 and Surgery, Clinical issues and guidance, COVID-19 guidelines for triage of throacic patients.
https://www.facs.org/covid-19/clinical-guidance/elective-case/thoracic-cancer, 2020,
4) Thoracic Surgery Outcomes Research Network: COVID-19 Guidance for Triage of Operations for Thoracic Malignancies: A Consensus Statement from Thoracic Surgery Outcomes Research Network. Ann Thorac Surg, 2020, DOI 10.1016/j.athoracsur.2020.03.005
5) ESMO: Management and treatment adapted recommendations in the COVID-19 era: Lung Cancer, https://www.esmo.org/guidelines/cancer-patient-management-during-the-co
vid-19-pandemic/lung-cancer-in-the-covid-19-era

6) Singh AP, Berman AT, Marmarelis ME, et al: Managemenet of Lung Cancer during the COVID-19 pandemic. JCO Onclogy Practice, 2020, DOI 10.1200/OP.20.00286
7) Dingemans AC, Soo RA, Jazieh AR, et al: Treatment guidance for lung cancer patients during the COVID-19 pandemic. J Thorac Oncol, 2020, DOI 10.1016/j.jtho.2020.05.001
8) Uzzo RG, Kutikov A, Geynisman DM: Coronavirus disease 2019 (COVID-19): Cancer care during the pandemic,
https://www.uptodate.com/contents/coronavirus-disease-2019-covid-
19-cancer-care-during-the-pandemic

2)フェーズIIIであっても行うべき手術にはどのようなものがありますか?

フェーズIIIであっても行うべき手術として下記のようなものが挙げられます。
・ 気道が脅かされ窒息のリスクがある場合
・ 腫瘍に伴う敗血症
・ 致死的になり得る外科手術の合併症 出血、気道の縫合不全など

3)フェーズIIであっても行うべき手術にはどのようなものがありますか?

このフェーズではたいていの待機的手術は延期が推奨されますが、以下は早く行う必要があります。
・ 腫瘍関連の感染症
・ 血胸、膿胸、感染したメッシュなど

4)フェーズIの時の優先度の高い手術にはどのようなものがありますか?

フェーズIの時の優先度の高い手術として下記のようなものが挙げられます。
・ 充実主体(>50%)の腫瘍、2cmより大きい腫瘍であるがリンパ節転移陰性。腫瘍倍加時間<400日
・ リンパ節転移陽性(切除可能なN1/N2で治療前または導入治療終了後)
・ 治療方針決定のためのステージングのための小手術(縦隔鏡、胸膜播種診断のための胸腔鏡)
・ 臨床試験に組み入れられた患者のプロトコル治療としての手術
・ 肺がん関連の膿瘍、膿胸、心タンポナーデに対する手術。

5)フェーズIの時の優先度の中程度の手術にはどのようなものがありますか?

フェーズIの時の優先度の中等度の手術として下記のようなものが挙げられます。
・ T1N0あるいは2cm以下の腫瘍
・ 腫瘍の体積(part-solidの充実部)>500mm3
・ 腫瘍倍加時間<400日
・ Solid成分が出現した腫瘍

6)フェーズIの時にも優先度の低い手術にはどのようなものがありますか?

フェーズIの時でも優先度の低い手術として下記のようなものが挙げられます。
・ GGO主体の結節
・ 緩慢な組織型(カルチノイドなど)
・ 増大が緩慢な腫瘍(倍加時間>600日)
・ ネオアジュバント治療によって手術の延期が可能な場合
・ 定位放射線治療が治療選択肢として十分成り立つ場合
・ 非侵襲的方法でも代替可能な場合のステージング目的の小手術

7)手術後の病理病期がIII期でした。術後補助化学療法を行うべきでしょうか?

一般に、術後補助化学療法(シスプラチン+ナベルビンなど)はII期、III期の術後に生存率をあげるために行うことが標準治療となっています。この治療による予後の改善程度はIII期がII期より大きいこともわかっています(一方、I期では却って予後を悪くするため行いません)。COVID-19蔓延程度によっては延期する選択肢もあります1)。ある研究では4ヶ月程度術後化学療法を遅らせても通常の6-12週後に始めるのと効果や安全性がなかったという報告があります2。また75歳以上の患者(もともと術後化学療法の臨床試験には75歳以上の患者は含まれていないことが多いこともあります),リンパ節転移なし、合併症を有する患者などでは術後化学療法を行うことを再検討すべきでしょう2)

1) ESMO: Management and treatment adapted recommendations in the COVID-19 era: Lung Cancer, https://www.esmo.org/guidelines/cancer-patient-management-during-the-covid-19-pandemic/lung-cancer-in-the-covid-19-era
2) Salazar MC, Rosen JE, Wang Z, et al: Association of Delayed Adjuvant Chemotherapy With Survival After Lung Cancer Surgery. JAMA Oncol 3:610-619, 2017, DOI 10.1001/jamaoncol.2016.5829

8)肺がん術後フォローで定期通院をしてもらっていますが、これまで通りフォローを行うべきでしょうか?

切除した時の肺がんの進行度(たとえばIA期なのかIIIA期かでは、再発のリスクが異なります)、症状の有無(とくに最近出現した症状、痛みなど、咳嗽、血痰、頭痛など)、術後の経過年数(一般に再発のリスクは手術から時間が経つほど低くなります)によって、受診した結果再発病変がみつかり治療が開始される確率が異なります。再発リスクがすくないと思われるときは蔓延のフェーズにもよりますが、フォローの間隔の延期を検討できます。

9)COVID-19流行時の局所進行肺がん治療(化学放射線療法)は行うべきでしょうか?

COVID-19の流行度、医療資源の状況や肺がんの状態など総合的に検討する必要がありますが、化学放射線療法の適応となる切除不能局所進行肺がんは根治的治療の可能性が残る進行度ですのでできる限り治療の遂行が望ましく、治療延期については慎重な判断が求められます。欧州臨床腫瘍学会(ESMO)では、局所進行肺がんの化学放射線療法は優先度をhighとしており1)、他の国際グループガイダンスでも局所進行肺がんの化学放射線療法は2週間以上の治療開始を遅延すべきてないとしています 2)

①非小細胞肺がん

切除不能III期非小細胞肺がんの標準治療は、化学放射線療法後の免疫チェックポイント阻害薬(ICI)維持療法であり、化学療法のレジメンとしては、通常、シスプラチン+ドセタキセル(CD療法)、カルボプラチン+パクリタキセル(CP療法)が用いられます3)。IASLCでは放射線との併用レジメンとしてSARS-CoV-2暴露機会を減らすため点滴回数の少ないシスプラチン+ペメトレキセドを勧めているガイダンス2)もありますが、このレジメンは日本人のデータに乏しいこと、また本邦では化学放射線療法は入院で行われることが多いことなどを鑑みますと、本邦ではこれまで通りCD療法やCP療法を行うことになると思われます。ただし、CP療法はステロイドを多量に使用するためSARS-CoV-2への潜在的な感染リスクが上昇する可能性には留意が必要です。

②小細胞肺がん

小細胞肺がんは、一般的に進行が速くまた治療感受性も高いことからCOVID-19流行時であっても可及的に通常通りの治療が行われることが望ましいと考えられます。ESMO、IASLCでも限局型小細胞肺がんに対しては、COVID-19流行時であっても標準治療を行うように推奨されています1) 3) 。
1) https://www.esmo.org/guidelines/cancer-patient-management-during-the-covid-19-pandemic/lung-cancer-in-the-covid-19-era
2) Dingemans AC, et al. J Thorac Oncol. 2020. PMID: 32422364
3) 肺癌診療ガイドライン:特定非営利活動法人 日本肺癌学会
https://www.haigan.gr.jp/modules/guideline/index.php?content_id=3

10)COVID-19流行時の転移・再発性進行肺がん治療(薬物治療)は行うべきでしょうか?

COVID-19流行時は、がん薬物治療による潜在的なCOVID-19感染リスク・重症化リスク念頭に置く必要があります。重症化リスクについては、COVID-19に罹患した肺がんや悪性中皮腫を含む胸部がん患者の多施設レジストリ研究(TERAVOLT)が行われています。この研究では、細胞傷害性抗がん剤治療や分子標的治療、免疫チェックポイント阻害薬(ICI)の使用と死亡リスク増加には関連性を認めませんでした1)。また、Memorial Sloan Ketteringがんセンターの単施設後ろ向き観察研究では、肺がん患者の細胞傷害性抗がん剤治療や分子標的治療、免疫チェックポイント阻害薬(ICI)とCOVID-19重症化との関連性を認めていません2)。このため、COVID-19の流行程度、医療資源の状況や肺がんの状態など総合的に判断し、可能な限り標準治療が行えるかどうかについて検討を行っていきます。

①非小細胞肺がん

COVID-19重症化high riskである高齢者や合併症のある患者については、腫瘍量が少なく肺がんの状況が落ち着いているようであれば治療開始の延期の可否を検討します3)。しかし、生存期間延長効果にエビデンスのある初回化学療法や有症状の二次治療は、COVID-19流行時であってもできるだけ標準治療を行うことが望ましいと考えられます4)。EGFR/ALK/ROS1/METなど分子標的治療の対象となる遺伝子変異を認める場合には、それぞれに応じた分子標的治療が望ましいと考えられます5)。分子標的治療薬によって長期間、病勢コントロールがついている場合には、来院によるSARS-CoV-2への暴露リスク軽減のためこれまで1ヵ月毎であった受診間隔を2-3ヵ月毎へ延長できるかなどについて検討を行います6)
標的となる遺伝子変異がない場合ICI+細胞傷害性抗がん剤、あるいはPD-L1の発現によってペムブロリズマブ単独療法を検討しますが5)、細胞傷害性抗がん剤の骨髄抑制による潜在的SARS-CoV-2感染リスク上昇を考え、特にPD-L1≧50%の症例ではペムブロリズマブ単独療法がより望ましい可能性があり、IASLCでもそのように推奨されています3)。ICI単独投与については、これまでの標準的な用法では2~3週間に1度の投与になっていましたが、投与頻度を減らせる可能性が示唆されており7)、2020年にニボルマブの4週毎投与およびペムブロリズマブの6週毎投与が承認されました。 厳密にこれらの投与方法が本当に既存の2-3週毎投与と同等の治療効果があるかについては今後のデータを待つ必要がありますが、COVID-19流行時の来院による感染リスクを減少させるためにもこれら4-6週毎投与を積極的に活用すべきと考えます。 また、ペムブロリズマブは2年以上奏効している症例に対して、さらにペムブロリズマブを継続することで予後が改善するかについては明らかとなっていません。 このため、このような症例ではペムブロリズマブ中止を検討します。

②小細胞肺がん

既述のように、小細胞肺がんは進行が速くまた治療感受性も高いことからCOVID-19流行時であっても可及的に通常通りの治療が行われることが望ましいと考えられます。現在、進展型小細胞肺がんの標準治療はICI+細胞傷害性抗がん剤(3週毎)ですが5)、既述のようにICIはより長い間隔でも投与可能の可能性があり7)、ICIの維持療法の時点で病勢が安定している症例では投与間隔の延長を検討します。
1) Garassino MC, et al. Lancet Oncol. 2020 Jun 12:S1470-2045(20)30314-4.
2) Luo J, et al. Ann Oncol. 2020 Jun 16:S0923-7534(20)39894-X. doi: 10.1016/j.annonc.2020.06.007. Online ahead of print.
3) Dingemans AC, et al. J Thorac Oncol. 2020. PMID: 3242236
4)  https://www.esmo.org/guidelines/cancer-patient-management-during-the-covid-19-pan
demic/lung-cancer-in-the-covid-19-era
5) 肺癌診療ガイドライン:特定非営利活動法人 日本肺癌学会 https://www.haigan.gr.jp/modules/guideline/index.php?content_id=3
6) https://www.jsmo.or.jp/news/coronavirus-information_medical.html
7) Hurkmans DP, et al. J Immunother Cancer. 2019 Jul 19;7(1):192. doi: 10.1186/s40425-019-0669-y. PMID: 31324223

Ⅲ. 食道がん
 

一般に食道がんは悪性度が高く、早急に積極的な治療が必要であり、特に外科手術は大侵襲手術であることから、ICUや人工呼吸器管理を必要とする代表的な疾患です。一方、COVID-19は、ICUの機能低下や、人工呼吸器不足、医療チームのマンパワー不足をもたらすことから、食道がん手術は、最も影響を受けやすいと考えられます。したがって、症例ごとに、状態、進行度、併存症などを十分考慮し、適切な対応が望まれます。

下記のQ and Aでは、各医療機関のCOVID-19による影響の程度により、判断することが必要と思われます。

Phase I: COVID-19 患者がほとんどいない。病院の治療資源が枯渇していない。ICU での人工呼吸器にまだ余裕がある。病院内のCOVID-19患者の増加傾向が急速ではない状態。
Phase II: ICU での人工呼吸器が限られている。病院内のCOVID-19患者が急速に増加している状態。
Phase III:病院の治療資源が全てCOVID-19患者のために使用されている状態。ICU で使用できる人工呼吸器がない状態。

1)粘膜内がん(T1a)の内視鏡的粘膜下層剥離術(Endoscopic submucosal dissection : ESD) はpandemic な時期に行うべきでしょうか?

 粘膜内がんは、ただちにはlife-threatening とはならないので、ESDの延期を考慮すべきです。 しかも、エアロゾル発生の原因となる上部消化管内視鏡はパンデミックな時期には延期すべきです。

2)食道表在がんは手術すべきでしょうか?

 手術適応となるT1b の患者は、病院が今後数週間機能する見込みのあるphase I では、手術を考慮すべきです。ただし、早期の術後人工呼吸器からの離脱が難しい患者やICU 入室期間が長期となることが予想される患者は手術を遅らせるべきです。また、手術適応となるT1b 患者を有するPhase II、 IIIの医療施設では、Phase Iの施設への移送も考慮する。また、手術延期の期間、耐術能などを総合的に判断し、化学放射線療法も選択肢として考慮すべきです。

3)進行食道がんの治療はどうすべきでしょうか?

病院が今後数週間機能する見込みのあるphase I で、T1b 以上の患者は、基本的に手術を考慮すべきです。
なお、最近のsystemic review論文(注1)では、Evidenceレベルは低いものの、診断から手術までに8週間以上遅れると、食道癌の生存率が悪化する可能性があると報告されています。
Phase I の状態では
● 術前化学療法(Neoadjuvant chemotherapy: NAC)が適応となる患者であれば可能な限りNAC を施行します。また、NAC が終了している患者ではさらに数サイクルのNAC の追加も考慮すべきです。
ただし、最近のsystemic review論文(注1)では、Evidenceレベルは低いものの、NACから手術までの期間が延長すると生存率が低下し(RR 0.88, 95% CI: 0.82-0.95)、NACから手術まで6-8週が適正であると分析しています。
● 食道狭窄を起こしている患者は化学放射線治療(Chemoradiotherapy: CRT)も考慮すべきです。

Phase II の状態では、
● 敗血症に陥っていない食道穿孔症例では、手術を考慮すべきです。
● 患者をPhase I の施設へ転院させることも考慮すべきです。
● 可能ならNAC を definitive CRT に変更することも考慮すべきです。

Phase III の状態では、
● 敗血症に陥っている食道穿孔症例では、手術を考慮すべきです。
● 気道閉塞切迫症例では手術を考慮すべきです。
● 腫瘍関連敗血症症例では手術を考慮すべきです。
● 上記以外の患者の手術は延期するべきです。
● 患者をPhase I、II の施設へ転院させることを考慮すべきです。
注1.J Thorac Dis 2020;12(11):6640-6654 | http://dx.doi.org/10.21037/jtd-20-2400

4)術後合併症を回避するには術前PCRは必要ですか?

食道がん手術は呼吸不全のリスクが高く、可能ならば、術前のCOVID-19感染の有無を評価することが望まれます。胸部CT、PCRなどの術前検査が選択肢とあげられますが、その有効性、正診率において現時点でコンセンサスは得られていません。 中国の報告によると(ISDE cf 17)、がん患者において過去1か月に化学療法を受けた若しくは手術加療を受けた患者は、COVID-19に感染していると、高率で重症化すると報告されています。(odds ratio 5.34, 95%CI 1.80-16.18; p=0.0026) (ISDE statement 13-a)
したがって、COVID-19の感染の有無を術前に把握することは望ましいと考えられます。

5)COVID-19が蔓延すると術後の人工呼吸器の確保はできますか?

COVID-19が蔓延する地域においては、人工呼吸器をはじめとする集中治療管理が不足する可能性があるため、より大きなcapacityのある施設に転送の上、手術することを検討します。(ISDE statement 14) 特にphase IIにある医療機関においては、食道がん手術待機症例はphase I施設への転送が望まれます。

6)経鼻経管栄養は安全に行えますか?

術前の経鼻栄養については経鼻胃管挿入時にエアロゾルが生じ、感染のリスクが高くなるため、high risk 分類 (ISDE statement 4) (注1) に含まれる症状のある患者には推奨されません。high risk 分類に含まれる症状がなく、高度栄養障害のため主治医が必要と判断した際には個人防護具(PPE) の徹底 (注2) のもと経鼻栄養を考慮します。

注1
high risk 分類 (ISDE statement 4)とは、
a. 37.5 ℃ 以上の発熱
b. 咳
c. 呼吸苦
d. ハイリスク地域への渡航歴のある患者、COVID-19患者への接触歴のある患者、上記の症状がある患者への接触歴のある患者

注2
● 患者、医療スタッフ全員がサージカルマスクを着用。もし不可能ならば少なくとも患者に接触する医療スタッフ、high risk 分類あるいはCOVID 19 患者は着用する。
● 患者に接触する医療スタッフはN95, ゴーグルあるいはフェイシャルシールドを着用する。もし不可能ならhigh risk 分類の患者については少なくとも患者、および医療スタッフ両者がサージカルマスクを着用すべきである。
● グローブ、ヘアネット、シューズカバー、防水ガウンを着用する。
● high risk 分類の患者においては必要最小人数の医療従事者が手技を施行する。
● high risk 分類の患者においては陰圧室で施行することが望ましいが、もし不可能なら、固定され、隔離された部屋で施行されるべきである。

7)術後の外来受診を控えていただいた方が良い場合がありますか?

 high risk 分類 (ISDE statement 4)に当てはまる項目がある場合には、まず患者自ら発熱者外来に連絡し、発熱者外来への受診が必要かどうか指示を仰ぐように伝えます。
・退院後と状態が変わらない場合には電話で患者と相談し、可能な限り受診を控えるように調整することを推奨します。ただしCT等画像検査に関しては主治医の判断で施行を考慮しますが、病院滞在時間を短くするように配慮し、患者には他人との接触を最低限に抑えるよう努めていただくべきです。

8)緩和医療を必要とする食道がん患者への対応はどのようにするべきですか?

・COVID-19の蔓延により医療物資の不足が生じている場合には、通常のケアを続けることが困難であっても、限られた資源の中で可能な限りの緩和医療を施すように尽力します。
・人的・物的資源の不足により十分な緩和医療を提供できない場合(phase II, III)には、より資源に余裕のある医療施設への紹介を考慮します。
・緩和医療を受けている患者は罹患により致死的になることを踏まえ、医療従事者に僅かでも症状がある場合にはその人員とそのチームが自宅待機できるよう小グループに分けるなどして人員配置に余裕を持たせるべきです。

関連情報
日本緩和ホスピス協会:https://www.hpcj.org/info/kinkyu_m.html

9)COVID-19感染が明らかとなった食道がん患者への対応はどうすべきですか?

COVID-19感染が確定した場合は、ISDE Statement 5に準ずる隔離を行ったうえで、陰性化するまで、手術、CRT、ステント治療をはじめとする食道がんに対する積極的な治療は延期することが望まれます。ただし、症例ごとに、治療の必要性、優先度を判断します。

【ISDE Statement 5】
・ トイレ付きの部屋に隔離します。
・トイレ付きの部屋への隔離が不可能であれば、換気された部屋において他の患者から最低2m以上離れた状態での隔離とします。
・Physical barrier、マスクを着用し、咳エチケットを守ること。
・医療従事者との接触を最小限にします。
・症例毎に消毒を行います。

関連情報
ISDE guidance statement https://isde.net/covid19-guidance

Ⅳ.胃がん・GIST
 

 胃がんは悪性疾患なので治療が必要です。転移をおこすGISTも治療が必要です。COVID-19の流行が長期化しているので、患者の体調や地域の流行状況で一時的な延期はあるにしても、経過観察を続けることは勧められません。手術の延期が予後に与える影響を調べた過去の(2005-2020)文献のreviewでは、胃癌について明らかな影響は確かめられませんでしたが、大腸癌では手術の延期が予後を不良にすることが報告されています。治療の時期をいつにするか、個人差があり、がんの進行度や全身状態(他の病気の合併)にもよりますので、患者さんおよび家族とよく相談してください。治療は、医療資源(スタッフ・手術室・ICU・一般病棟・検査室・個人防護具(personal protective equipment:PPE)・人工呼吸器・手術器材・薬剤・滅菌・施設の清掃など)が十分に確保されている施設で行ってください。

Gastrointestinal Malignancies and the COVID-19 Pandemic: Evidence-Based Triage to Surgery
Scott C. Fligor et al. Journal of Gastrointestinal Surgery (2020) 24:2357-2373

1)内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)適応の早期胃がんが見つかりましたが、今行うべきですか?

 月単位で延期は可能です。6か月以上延期する場合はがんの状態を診断するために内視鏡検査を勧めます。ESDを行えば病理診断ができ、必要な場合は追加切除ができます。

関連情報
1. 早期胃がんの診断後、6か月以上無治療であった71例の予後を10年目以降に検討した研究によると、5年後の進行がん移行率が63%[95%信頼区間(CI): 48-78%]であった。早期胃がんを治療せずに放置されていた場合と、経過中、治療を行っていた場合では、予後に有意な違いがあり、診断後6か月以降でも治療介入により予後が改善することを示すデータがあります。
Tsukuma et al. Gut 2000
2. 全国集計による内視鏡追跡例230例の検討では、遡及例を中心としたMがんは,内視鏡治療の適応を越える深達度に達するのに約7年を要し,早期がんが進行がんになるには9年を要すると考えられ、分化度が低いことと年齢が高いことが発育速度に影響していました。また,SM浸潤がんの発育速度はMがんに比し速いことが示されました。
松井敏幸ほか 胃と腸 2008

2)ESD適応外の早期胃がんに対して、手術は延期可能でしょうか。また、延期が許容できる期間はどのくらいでしょうか?

 月単位で延期は可能です。できれば6か月以内の手術を勧めます。

3)ESD後追加切除目的の胃がんの胃切除術は延期可能でしょうか?また、延期が許容できる期間はどのくらいでしょうか?

 月単位で延期は可能です。ESDで切除した病変によってがん遺残の可能性やリンパ節転移のリスクも異なるので、患者さんに説明し、相談してください。

4)幽門狭窄・閉塞を伴い、通過障害がある進行胃がんの手術適応と適切な手術時期について教えてください。

 週単位で延期は可能です。入院による適切な全身管理の下で、より良い時期の手術、あるいは薬物療法を勧めます。
ウイルス感染の疑いが高く、手術を回避することが望ましい場合は、消化管ステントによって狭窄・閉塞の解除が応急的に可能な場合もありますので、患者さんと相談してください。

関連情報
Resource for Management Options of GI and HPB Cancers During COVID-19
Society of Surgical Oncology
https://www.surgonc.org/wp-content/uploads/2020/04/GI-and-HPB-Resource-during-COVID-19-4.6.20.pdf

5)幽門閉塞を伴う進行胃がんで、長期の経鼻胃管留置は可能ですか?

 挿入時や抜去時、また留置中の管理には従事者の感染防御対策(PPE等)が必要です。ウイルス蔓延下での消化器外科としてのエビデンスはなく、施設と主治医の判断に委ねます。

6)出血を伴う進行胃がんの手術適応と適切な手術時期について教えてください。

 週単位で延期は可能です。入院による適切な全身管理の下で、より良い時期の手術、あるいは薬物療法を勧めます。

7)胃がんの手術の後の術後補助化学療法は行うべきでしょうか?

 胃癌治療ガイドラインに沿った施行が望まれます。ウイルス蔓延下では、高齢者や併存疾患のある症例には感染に対する注意が必要です。
進行病期と再発リスクの程度を患者さんに充分に説明し、術後化学療法を行った方がよいのかどうか、よく相談して決めてください。

8)術後補助化学療法中の外来診療は、(投与、検査など)通常通りで良いでしょうか?

 検査や薬剤投与について、原則は通常どおりが望まれます。白血球減少など感染に対する免疫力の低下をできるだけ避ける注意が必要です。G-CSF製剤や予防的な抗生剤投与も考慮します。
再発リスクの低い症例への術後化学療法の場合、治療の延期や再考、休薬、減量など、免疫抑制の少ない治療への変更も考えます。内服薬への変更や投与間隔が長めのレジメンへの変更も考慮します。
来院時の患者さんの導線や検査・診察・治療場所については感染防御対策に基づいた工夫が必要です。電話相談で対応できる場合もあります。

9)胃切除後の定期検査は3か月毎の腫瘍マーカー測定、6か月毎のC T撮影ですが延期可能でしょうか。Stageや腫瘍マーカーの変動により考慮すべきでしょうか?

治療ガイドラインに沿ったフォローアップが望まれます。検査の必要性と通院に伴う感染リスクについて患者さんに説明し、検査の時期を相談してください。電話相談で対応できる場合もあります。

関連情報
ただし、術後フォローアップを行うことにより延命効果が期待できるとのエビデンスは乏しい状態です。また、定期的な術後フォローアップ方法についての前向きの研究論文はないため適正な検査や間隔についての根拠は乏しい状態です(胃癌治療ガイドライン 2018年 改訂第5版)。

10)術後癒着性イレウスにおけるイレウス管留置で注意すべきことがありますか?(挿入時、留置時)。

患者の咳き込みや嘔吐反射の際にウイルスを含む飛沫やエアロゾルが拡散し、これらを介した感染が起こり得ます。挿入時や抜去時、また留置中の管理には従事者の個人防護対策(PPE等)が必要です。
ウイルス蔓延下での消化器外科としてのエビデンスはなく、施設と主治医の判断に委ねます。

11)胃がんの術前化学療法(NAC)治療について気を付けることがありますか?

患者さんの全身状態に注意が必要で、必要に応じて入院での加療も検討してください。
白血球減少など感染に対する免疫力の低下をできるだけ避ける注意が必要です。G-CSF製剤や予防的な抗生剤投与も考慮します。
体調に変化がある場合は迅速に対応し、入院も考えてください。

12)化学療法中の発熱・呼吸器症状を認めた場合に推奨される検査はありますか?

 通常の血液検査・胸部X線撮影に加えて、COVID-19のPCR検査、胸部CT撮影が望ましいと考えます。

13)胃GISTに対する手術は延期可能でしょうか?

 ① 5cm以上: 月単位で手術の延期は可能です。できれば6か月以内の手術を勧めます。生検でのリスク分類やCTでの進行度を参考に、悪性度によって手術の時期を延期してください。
② 2~5cm: 月単位で手術の延期は可能です。6か月~1年後の内視鏡検査を勧めます。生検でのリスク分類やCTでの進行度を参考に、悪性度によって手術の時期を延期してください。
③ 2cm未満: 延期可能と考えます。1年後の内視鏡検査を勧めます。

Ⅴ. 大腸がん

1)便潜血検査陽性でしたが、検査を行うべきですか?

 精査の下部消化管内視鏡検査によって大腸がんが見つかれば、進行度によって早急な治療が必要な場合もあり、検査によってその後の対応が変わってきます。検査は受けるべきですが、新型コロナウイルス対策がとれている施設での実施を推奨いたします。また、実施施設においては、糞便からのウイルス排出の可能性も指摘されており、下部消化管内視鏡検査における潜在的な感染リスクもあると考え、十分な対策のもとでの施行が望まれます。
事前の問診や検温などによりリスクを評価し、適応を適切に判断した上で、個人防護具(PPE)による防護策の徹底などを心掛けるべきです。

関連情報
1)新新型コロナウイルス感染症(COVID-19)への消化器内視鏡診療についての提言・改訂第6版(日本消化器内視鏡学会 2020年5月29日)
https://www.jges.net/medical/covid-19-proposal
2)新型コロナウイルス感染症に関する消化器内視鏡診療についてのQ&A-緊急事態宣言解除後の対応も含めて-(日本消化器内視鏡学会、2020年10月7日(第5版)))
https://www.jges.net/medical/covid-19-qa#cq3
3) 最近のCOVID-19感染状況における消化器内視鏡学会としてのスタンスについて(医療安全委員会、2020年8月4日)
https://www.jges.net/medical/covid-19-stance

2)大腸内視鏡検査で早期がんを認めました。EMR、ESD治療は早期に行うべきですか?

内視鏡的粘膜切除術(Endoscopic mucosal resection : EMR)、内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)治療は早期に行うべきですか?
基本的には事前の問診や検温などによりリスクを評価し消化器内視鏡診療の適応を適切に判断した上で、個人防護具(PPE)による防護策の徹底がなされていれば内視鏡診療の継続は可能であるとされています。
早期大腸がんの深達度やサイズにもよりますが、例えばポリープの一部ががん化したような極めて早期の場合には、治療を延期することも選択肢の一つとなります。糞便からのウイルス排出の可能性も指摘されており、下部消化管内視鏡検査における潜在的な感染リスクもあるため、COVID-19感染症例・疑い症例に対しては治療の延期が強く勧められています。しかし、深達度が深かったり、リンパ節転移が否定できなかったりする可能性がある場合は、適切な感染予防策を講じたうえで適切な時期に治療を実施するべきです。

関連情報
1)COVID-19 Guidelines for Triage of Colorectal Cancer Patients(American College of Surgeons; ACS)
https://www.facs.org/covid-19/clinical-guidance/elective-case/colorectal-cancer
2)新型コロナウイルス陽性および疑い患者に対する外科手術に関する提言(改訂版)(日本外科学会)
https://www.jssoc.or.jp/aboutus/coronavirus/info20200402.html
3)新型コロナウイルス感染症(COVID-19)への消化器内視鏡診療についての提言・改訂第6版(日本消化器内視鏡学会 2020年5月29日)
https://www.jges.net/medical/covid-19-proposal

3)cStage 0-I大腸がん手術の延期基準および延期期間は何か月ですか?

早期大腸がんで、例えばポリープの一部ががん化したような極めて早期で手術となる場合には、3か月間手術を延期することも選択肢の一つとなります。医療供給体制がひっ迫した状況であれば、集中治療室の病床、人工呼吸器などのリソースが必要とされる場合、早期癌やStage0-Ⅰの患者では手術の延期を検討すべきです。
ただし、手術を3ヶ月以上遅らせることが腫瘍学的転帰に悪影響を及ぼす場合、延期せず治癒切除を行うべきです

関連情報
1)COVID-19 Guidelines for Triage of Colorectal Cancer Patients(American College of Surgeons; ACS)
https://www.facs.org/covid-19/clinical-guidance/elective-case/colorectal-cancer
2)新型コロナウイルス陽性および疑い患者に対する外科手術に関する提言(改訂版)(日本外科学会)
https://www.jssoc.or.jp/aboutus/coronavirus/info20200402.html
3)新型コロナウイルス感染症蔓延期における外科手術トリアージの目安(改訂版ver2.4、2020年4月14日)(日本外科学会)
https://www.jssoc.or.jp/aboutus/coronavirus/info20200414.pdf
4)新型コロナウイルス感染症蔓延期における外科手術トリアージの目安(改訂版ver2.4、2020年4月14日)(日本外科学会)
4) Mori, M., et al. Covid-19: Clinical Issues from the Japan Surgical Society. Surg Today, 2020, 50: 794-808.

4)cStage II-III大腸がん手術の延期基準および延期期間は何か月ですか?

基本的には、切除可能な進行大腸がんの場合は、無症候性であっても適切な感染予防策を講じたうえで慎重に実施されるべきです。 しかし、COVID-19症例・疑い症例の場合や医療供給体制がひっ迫してきた場合には、リソースが回復するまで2~3か月の術前補助化学療法または化学放射線療法を推奨し、やむを得ない場合のみ適切な感染予防策を講じたうえで慎重に実施します。 輸血を必要とする出血、閉塞、穿孔がさしせまった患者には緊急手術が必須です。

関連情報
1)COVID-19 Guidelines for Triage of Colorectal Cancer Patients(American College of Surgeons; ACS)
https://www.facs.org/covid-19/clinical-guidance/elective-case/colorectal-cancer
2)新型コロナウイルス陽性および疑い患者に対する外科手術に関する提言(改訂版)(日本外科学会)
https://www.jssoc.or.jp/aboutus/coronavirus/info20200402.html
3)新型コロナウイルス感染症蔓延期における外科手術トリアージの目安(改訂版ver2.4、2020年4月14日)(日本外科学会)
https://www.jssoc.or.jp/aboutus/coronavirus/info20200414.pdf
4)Mori, M., et al. Covid-19: Clinical Issues from the Japan Surgical Society. Surg Today, 2020 50: 794-808.

5)Stage III症例におけるNAC治療は有用ですか(手術待機長期間)?

 切除可能な進行大腸がんStage Ⅲ症例に対しては、基本的には適切な感染予防策を講じた上で手術実施が推奨されます。しかし、COVID-19症例・疑い症例の場合や医療供給体制がひっ迫してきた場合には、手術を延期するための代替治療として2~3か月のNACが検討されます。レジメンとしては患者が病院や化学療法ユニットとの接触を減らすため、また感染のリスクを減らすためにも、CVポート造設等を要する5-FU持続静注より、経口抗がん剤が推奨されます。毒性のリスクが高まるためFOLFOXIRIの使用は状況が悪化している場合にのみ使用する必要があると考えられます。以上から、NCCN(National Comprehensive Cancer Network)ではCapecitabine単剤あるいはCapeOXを候補として提示しています。この場合でも来院回数や血液検査を少なくするために投与回数や投与量の減量を検討する必要があります。

関連情報
1)COVID-19 Guidelines for Triage of Colorectal Cancer Patients(American College of Surgeons; ACS)
https://www.facs.org/covid-19/clinical-guidance/elective-case/colorectal-cancer
2)新型コロナウイルス陽性および疑い患者に対する外科手術に関する提言(改訂版)(日本外科学会)
https://www.jssoc.or.jp/aboutus/coronavirus/info20200402.html
3)Principles for Management of Colorectal Cancer Patients During the COVID-19 Pandemic(Version 2, 5/1/2020)(NCCN: National Comprehensive Cancer Network)
https://www.nccn.org/covid-19/pdf/Colorectal%20COVID-19.pdf
4)Marshall, John L., et al. Colorectal Cancer Care in the Age of Coronavirus: Strategies to Reduce Risk and Maintain Benefit. Colorectal Cancer, 2020, 9.
http://dx.doi.org/10.2217/crc-2020-0010

6)cStage IV大腸がんの原発巣切除は行うべきですか?

 大腸がん診療ガイドライン(CQ6)に基づき、「他の療法では制御困難な原発巣による症状」がある場合は、適切な感染予防策を講じた上で手術実施が推奨されます。原発巣による症状がない場合は、全身化学療法の適応となります。しかし、COVID-19感染症例・疑い症例の場合や医療供給体制がひっ迫してきた場合には、原発巣による症状を緩和するために、大腸がん閉塞に対するステントや一時的人工肛門造設、特に直腸がんの出血には放射線照射や動脈塞栓術などが考慮されるべきです。
特に、ステントは、腸閉塞を解除できるだけでなく、COVID-19患者の増加時期を乗り切るのに有用です。
しかし、下部直腸癌患者には推奨されません。

関連情報
1)大腸癌治療ガイドライン2019年版 CQ6
http://www.jsccr.jp/guideline/2019/cq.html#cq6
2)Resource for Management Options of Colorectal Cancer During COVID-19(Society of Surgical Oncology)
https://www.surgonc.org/wp-content/uploads/2020/04/Colorectal-Resource-during-COVID-19-4.6.20.pdf
3)The challenges in colorectal cancer management during COVID-19 epidemic. Ann Transl Med 2020;8(7):498 |

7)大腸がんにおける手術治療の郭清は控えるべきか?

 大腸がん手術においては、D3郭清や側方郭清は安定した手術成績が確立しています。手術が予定された場合には、根治性の観点からは、ガイドラインに沿った郭清範囲は維持されるべきです。

関連情報
大腸癌治療ガイドライン2019年版 
http://www.jsccr.jp/guideline/2019/cq.html

8)COVID-19の大腸がんイレウスの患者さんは、緊急手術を行うべきですか?

 大腸がんイレウスで数日以内に手術しないと致命的となりうる状態、具体的にはステント挿入やイレウス管挿入など他の治療法がなく、病変からの出血で頻回の輸血などが必要な場合、あるいは穿孔や敗血症に至った場合は、SARS-CoV-2陽性者も緊急手術の適応となります。医療従事者は、フル個人用防護具(PPE)など十分な感染予防策を講じたうえで慎重に実施するべきです。

関連情報
1)Resource for Management Options of Colorectal Cancer During COVID-19(Society of Surgical Oncology)
https://www.surgonc.org/wp-content/uploads/2020/04/Colorectal-Resource-during-COVID-19-4.6.20.pdf
2)COVID-19 Guidelines for Triage of Colorectal Cancer Patients(American College of Surgeons; ACS)
https://www.facs.org/covid-19/clinical-guidance/elective-case/colorectal-cancer
3)新型コロナウイルス陽性および疑い患者に対する外科手術に関する提言(改訂版)(日本外科学会)
https://www.jssoc.or.jp/aboutus/coronavirus/info20200402.html
4)新型コロナウイルス感染症蔓延期における外科手術トリアージの目安(改訂版ver2.4、2020年4月14日)(日本外科学会)
https://www.jssoc.or.jp/aboutus/coronavirus/info20200414.pdf

9)COVID-19疑い大腸がんイレウスの患者さんは、緊急手術を行うべきですか?

 大腸がんイレウスで数日以内に手術しないと致命的となりうる状態、具体的にはステント挿入やイレウス管挿入など他の治療法がなく、病変からの出血で頻回の輸血などが必要な場合、あるいは穿孔や敗血症に至った場合は、COVID-19疑い患者も緊急手術の適応となります。SARS-CoV-2のPCR検査を行っている場合は、最大限その判定結果を待ちます。間に合わない場合は、医療従事者はSARS-CoV-2陽性者と同様にフル個人用防護具(PPE)など十分な感染予防策を講じたうえで慎重に実施するべきです。

関連情報
1)Resource for Management Options of Colorectal Cancer During COVID-19(Society of Surgical Oncology)
https://www.surgonc.org/wp-content/uploads/2020/04/Colorectal-Resource-during-COVID-19-4.6.20.pdf
2)COVID-19 Guidelines for Triage of Colorectal Cancer Patients(American College of Surgeons; ACS)
https://www.facs.org/covid-19/clinical-guidance/elective-case/colorectal-cancer
3)新型コロナウイルス陽性および疑い患者に対する外科手術に関する提言(改訂版)(日本外科学会)
https://www.jssoc.or.jp/aboutus/coronavirus/info20200402.html
4)新型コロナウイルス感染症蔓延期における外科手術トリアージの目安(改訂版ver2.4、2020.4.14)(日本外科学会)
https://www.jssoc.or.jp/aboutus/coronavirus/info20200414.pdf

10)COVID-19陽性患者の左側閉塞性大腸がんにおいてステント治療の手術回避および緊急ストマどちらがよいですか?

 COVID-19陽性の患者の場合は、狭窄を伴う大腸癌に対しては基本的にステント留置術を使用し、感染が解消された後に手術を行うなど、可能な限り保存的に行うべきです。 左側閉塞や穿孔に対してはHartmann法を検討すべきです。 また手術を行う場合、腹腔鏡手術やロボット手術ではSARS-COV-2のCO2への放出が懸念されています。 低侵襲手術よりも開腹手術を支持する明確なエビデンスはないですが、手術時にはスタッフのエアロゾル化粒子への暴露のリスクを排除するためのできる限りの努力を行う必要があります。

関連情報
1)Mori, M., et al. Covid-19: Clinical Issues from the Japan Surgical Society. Surg Today, 2020, 50: 794-808
2)Resource for Management Options of Colorectal Cancer During COVID-19(Society of Surgical Oncology)
https://www.surgonc.org/wp-content/uploads/2020/04/Colorectal-Resource-during-COVID-19-4.6.20.pdf
3)COVID-19 Guidelines for Triage of Colorectal Cancer Patients(American College of Surgeons; ACS)
https://www.facs.org/covid-19/clinical-guidance/elective-case/colorectal-cancer
4)Gallo G, La Torre M, Pietroletti R, Bianco F, Altomare DF, Puc- ciarelli S, et al. Italian society of colorectal surgery recommen- dations for good clinical practice in colorectal surgery during the novel coronavirus pandemic. Tch Coloproctol. 2020;14:1-5
https://www.jssoc.or.jp/aboutus/coronavirus/info20200402.html
5)Wexner SD, Cortes-Guiral D, Gilshtein H, Kent I, Reymond M. COVID-19: Impact on Colorectal Surgery. Colorectal Dis. 2020:22: 635-640
https://doi.org/10.1111/codi.15112
6)Aminian A, et al. COVID-19 outbreak and surgical practice: unexpected fatality in perioperative period. Ann Surg. 2020 Mar 26. doi: 10.1097/SLA.0000000000003925.

11)COVID-19疑い左側閉塞性大腸がんにおいてステント治療の手術回避および緊急ストマどちらがよいですか?

 COVID-19疑いの患者に対して、狭窄を伴う大腸癌に対しては基本的にステント留置術を使用し可能な限り保存的加療に努めます。 ステント、手術のいずれの治療においても処置を受ける患者には、手術入院の24~48時間前に電話による問診と、可能な限りPCRによるルーチンスクリーニングを行い、COVID-19感染の有無を明らかにすることが重要です。 胸部CT検査も手術前のスクリーニング検査として使用することができます。 PCR検査で陽性と判定された患者では、感染症が治癒するまで手術を延期すべきですが、生命を脅かす状況すなわち消化管穿孔、腸虚血を引き起こすイレウスなどの急性腹症のある左側大腸癌患者では緊急の外科的介入が必要です。

関連情報
1) Mori, M., et al. Covid-19: Clinical Issues from the Japan Surgical Society. Surg Today, 2020, 50: 794-808.
2)Guan WJ, et al. Clinical characteristics of Coronavirus disease 2019 in China. N Engl J Med. 2020, 382:1708-20.
3)Rothe C, et al. Transmission of 2019-nCoV infection from an asymptomatic contact in Germany. N Engl J Med. 2020, 382:970-1.
4)https://www.sages.org/recommendations-surgical-management-colorectal-cancer-covid-19/ Accessed April 11, 2020
5)Gao Y, et al. Emergency surgery in suspected COVID- 19 patients with acute abdomen: case series and perspectives. Ann Surg. 2020: 272:e38-e39. 
6)Gallo G, et al. Italian society of colorectal surgery recommen- dations for good clinical practice in colorectal surgery during the novel coronavirus pandemic. Tch Coloproctol. 2020, 14:1-5.

12)大腸がんStage IIIの補助化学療法は行うべきですか?

 過去14日間の抗がん剤治療とCOVID-19感染の重篤な影響との強い関連性が報告されており、化学療法による免疫抑制の状態はCOVID-19が重篤化する危険があります。
根治切除した結腸癌での補助化学療法の絶対的なベネフィットは5%であり、COVID-19の治療薬がない現状では、根治術が行われているStage III大腸がんに対して補助化学療法は積極的には推奨されません。
しかしながら、十分なエビデンスがない現状では、がん薬物療法およびCOVID-19に関した個々人におけるリスク・ベネフィットを勘案した上で治療決定を行う必要があります。
なお、補助化学療法を行う場合は、投与期間を短縮したり、経口抗がん剤を優先したり、レジメンを工夫することが必要です。

関連情報
1)Modifying Practices in GI Oncology in the Face of COVID19: Recommendations from Expert Oncologists on Minimizing Patient Risk(ASCO; American Society of Clinical Oncology)
https://www.asco.org/sites/new-www.asco.org/files/content-files/Lou-JCO-Oncology-Practice-20.00239.pdf
2)Andre T, et al. Improved overall survival with oxaliplatin, fluorouracil, and leucovorin as adjuvant treatment in stage II or III colon cancer in the MOSAIC trial. J Clin Oncol 2009, 27:3109 16.

13)大腸がん補助療法はインターバルをあけてもよいですか?

 個々人におけるリスク・ベネフィットを勘案した上で補助化学療法を行うべきか判断する必要がありますが、行う場合は推奨されたスケジュールを逸脱することは奨められません。使用薬剤を変更することで投与インターバルを調整したり、投与期間を短縮したりすることが推奨されています。例えば、ASCOではFOLFOXよりCapOX療法(3~6か月)あるいはcapecitabine内服を従来通り術後1~2か月で開始することが推奨されています。

関連情報
1)Modifying Practices in GI Oncology in the Face of COVID19: Recommendations from Expert Oncologists on Minimizing Patient Risk(ASCO; American Society of Clinical Oncology)
https://www.asco.org/sites/new-www.asco.org/files/content-files/Lou-JCO-Oncology-Practice-20.00239.pdf
2)ESMO management and treatment adapted recommendations in the COVID-19 era: Colorectal cancer (CRC)
https://www.esmo.org/guidelines/cancer-patient-management-during-the-covid-19-pandemic/gastrointestinal-cancers-colorectal-cancer-crc-in-the-covid-19-era

14)進行直腸がんの治療において術前化学放射線療法(Neoadjuvant chemoradiotherapy: NACRT)は行ってもよいですか?

 本邦では欧米で標準であるNACRTは積極的には行われていないのが現状です。局所再発リスクが高い直腸がんの場合は、NACRTを行うことが弱く推奨されていますが、その際は短期照射(5Gy × 5回)、併用薬剤はCapOXなどが推奨されています。米国では、COVID-19感染症の影響で手術延期が余儀なくされた場合に、代替療法として短期照射によるNACRTを選択しダウンステージングが得られると、12~16週間手術を延期することができるとされています。

関連情報
1)大腸癌治療ガイドライン2019年版 p.78(大腸癌研究会)
2)Modifying Practices in GI Oncology in the Face of COVID19: Recommendations from Expert Oncologists on Minimizing Patient Risk(ASCO; American Society of Clinical Oncology)
https://www.asco.org/sites/new-www.asco.org/files/content-files/Lou-JCO-Oncology-Practice-20.00239.pdf
3)ESMO management and treatment adapted recommendations in the COVID-19 era: Colorectal cancer (CRC)
https://www.esmo.org/guidelines/cancer-patient-management-during-the-covid-19-pandemic/gastrointestinal-cancers-colorectal-cancer-crc-in-the-covid-19-era
4)Resource for Management Options of Colorectal Cancer During COVID-19(Society of Surgical Oncology)
https://www.surgonc.org/wp-content/uploads/2020/04/Colorectal-Resource-during-COVID-19-4.6.20.pdf
5)Mori, M., et al. Covid-19: Clinical Issues from the Japan Surgical Society. Surg Today, 2020, 50: 794-808.

15)進行直腸がんの治療においてNACRTは行わず、根治手術を行うべきですか?

 本邦では欧米で標準であるNACRTは積極的には行われていないのが現状です。本邦の大腸がん専門施設においては、下部直腸がんに対してはTME(あるいはTSME)+側方郭清が標準的に行われており、良好な成績が報告されています。通常、NACRTを行わず手術を実施している施設では、COVID-19の影響が軽微な場合は、適切な感染予防策を講じたうえで根治手術を実施すべきです。しかし、COVID-19症例・疑い症例の場合や医療供給体制がひっ迫してきた場合には、代替治療として短期照射(5Gy × 5回)によるNACRTや術前化学療法が選択肢となります。

関連情報
1)大腸癌治療ガイドライン2019年版 p.78(大腸癌研究会)
2)Modifying Practices in GI Oncology in the Face of COVID19: Recommendations from Expert Oncologists on Minimizing Patient Risk(ASCO; American Society of Clinical Oncology)
https://www.asco.org/sites/new-www.asco.org/files/content-files/Lou-JCO-Oncology-Practice-20.00239.pdf
3)ESMO management and treatment adapted recommendations in the COVID-19 era: Colorectal cancer (CRC)
https://www.esmo.org/guidelines/cancer-patient-management-during-the-covid-19-pandemic/gastrointestinal-cancers-colorectal-cancer-crc-in-the-covid-19-era
4)Resource for Management Options of Colorectal Cancer During COVID-19(Society of Surgical Oncology)
https://www.surgonc.org/wp-content/uploads/2020/04/Colorectal-Resource-during-COVID-19-4.6.20.pdf
5)新型コロナウイルス感染症蔓延期における外科手術トリアージの目安(改訂版ver2.4、2020年4月14日)(日本外科学会)
https://www.jssoc.or.jp/aboutus/coronavirus/info20200414.pdf
6)Mori, M., et al. Covid-19: Clinical Issues from the Japan Surgical Society. Surg Today, 2020, 50: 794-808.

16)境界領域切除困難大腸がん(肝転移・肺転移など遠隔転移)においてNACを行うべきですか?

 境界領域切除困難大腸がんでは、原発巣の大きさや浸潤程度、遠隔転移の個数や位置を含めて、肝転移の場合は肝臓外科医と、肺転移の場合は呼吸器外科医と協議し、NACを含めた治療方針を総合的に検討する必要があります。その上で、切除を優先すべきと判断されたなら、適切な感染予防策を講じたうえで手術が実施されるべきです。しかし、COVID-19症例・疑い症例の場合や医療供給体制がひっ迫してきた場合には、代替治療としてNACも選択肢の一つとなります。

関連情報
1)大腸癌治療ガイドライン2019年版(大腸癌研究会)
2)新型コロナウイルス感染症蔓延期における外科手術トリアージの目安(改訂版ver2.4、2020年4月14日)(日本外科学会)
3)Mori, M., et al. Covid-19: Clinical Issues from the Japan Surgical Society. Surg Today, 2020, 50: 794-808.
https://www.jssoc.or.jp/aboutus/coronavirus/info20200414.pdf

17)境界領域切除困難大腸がん(肝転移・肺転移など遠隔転移)においてNACのレジメンの推奨はありますか?

 各ガイドラインで示されている推奨レジメンを用いてNACを行うことになります。米国では、capecitabine内服、あるいは病院や化学療法室への来院機会を減らすために14日サイクルより21日サイクルのCapOX療法が推奨されています。COVID-19蔓延期には、毒性リスクの高いFOLFOXIRI療法は推奨されません。

関連情報
1)大腸癌治療ガイドライン2019年版(大腸癌研究会)
2)Principles for Management of Colorectal Cancer Patients During the COVID-19 Pandemic (Version 2, 5/1/2020) (NCCN: National Comprehensive Cancer Network)
https://www.nccn.org/covid-19/pdf/Colorectal%20COVID-19.pdf
3)Modifying Practices in GI Oncology in the Face of COVID19: Recommendations from Expert Oncologists on Minimizing Patient Risk(ASCO; American Society of Clinical Oncology)
https://www.asco.org/sites/new-www.asco.org/files/content-files/Lou-JCO-Oncology-Practice-20.00239.pdf
4)ESMO management and treatment adapted recommendations in the COVID-19 era: Colorectal cancer (CRC)
https://www.esmo.org/guidelines/cancer-patient-management-during-the-covid-19-pandemic/gastrointestinal-cancers-colorectal-cancer-crc-in-the-covid-19-era

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新型コロナウイルス感染症とがん診療について:医療従事者向け Q&A【4】

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