喫煙のがんを始めとする健康に関する情報(参考文献の紹介)
日本癌学会喫煙対策委員会では、新型たばこを含め、喫煙とがんを始めとする健康にまつわる国内外の様々な研究結果について、注目すべき参考文献を定期的に1~2編ずつ紹介していく取り組みを始めました。ここに紹介する研究論文は、がん予防・がん医療に対するインパクトの強さ、社会的インパクトをはじめ、最新の健康・医療にまつわるトピックスなども参考に選択しています。
【参考文献28】ヒトのがんに見られる喫煙による変異シグネチャー
タイトル:Mutational signatures associated with tobacco smoking in human cancer
著 者:Alexandrov LB, Ju YS, Haase K, Van Loo P, Martincorena I, Nik-Zainal S, Totoki Y, Fujimoto A, Nakagawa H, Shibata T, Campbell PJ, Vineis P, Phillips DH, Stratton MR
雑誌名:Science. 2016 Nov 4;354(6312):618-622.
リンク:https://www.science.org/doi/epdf/10.1126/science.aag0299
【文献の紹介文】
この論文では喫煙がリスク因子とされている17がん種5243症例のがん検体のゲノム解析を行い、喫煙による遺伝子変異のパターン(変異シグネチャー)を調べました。その結果、たばこの煙による直接暴露される肺などの上皮細胞由来のがんではC>A変異に特徴づけられるSignature 4の変異が増加し、これはたばこの煙に含まれるベンゾ[a]ピレンが原因であると考えられました。一方、たばこの煙に暴露されない組織では、加齢とともに蓄積するSignature 5の変異などが喫煙により増加しており、喫煙により何らかの機序でこの変異を生じるプロセスが活性化されていると考えられました。また、肺がんなどでは喫煙量が多い人に生じたがんでは遺伝子変異数がより多い傾向が見られました。
【紹介者コメント】
近年、がん細胞に蓄積する遺伝子変異のパターン(変異シグネチャー)から遺伝子変異が蓄積する原因や、がんを発症する原因を特定する試みが行われています。この論文は様々ながんにおける喫煙による変異シグネチャーの関係をまとめた代表的な論文で、たばこの煙への暴露する臓器では喫煙により遺伝子異常が多く蓄積し、発がんリスクの上昇に寄与していることが明らかになりました。一方で煙に暴露されない臓器のがんでなぜ遺伝子異常が増えているかについては、さらなる研究が必要であると考えられました。
担当委員:吉田 健一 (国立がん研究センター研究所 がん進展研究分野)
過去の参考文献
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- 参考文献21
- 参考文献20
- 参考文献19
- 参考文献18:肺がん罹患後の禁煙による生存率改善は、禁煙のがん進行抑制効果による
- 参考文献17:喫煙はがん以外にも多くの疾患のリスクと関連している
- 参考文献16:日本における喫煙による年間死亡者数は女性37,000人、男性162,000人
- 参考文献15:喫煙により頭頸部がんのリスクは10倍に上がる
- 参考文献14:少量の喫煙でも頭頸部がんのリスクは上昇する
- 参考文献13:加熱式たばこの利用により血液細胞のDNAのメチル化パターンが変わる
- 参考文献12:喫煙は死亡率を高め、禁煙はそのリスクを下げる:英国医師の追跡調査
- 参考文献11:がん診断前後に禁煙した人は、継続喫煙した人よりも二回目のがん罹患リスクが低い
- 参考文献10
2022年2月にCancer Scienceに掲載されたJCA会員に実施した喫煙状況調査に関するレポート - 参考文献9:加熱式たばこ、紙巻きタバコを両方吸う人は、呼吸機能の低下が多い
- 参考文献8:喫煙はがん、呼吸器疾患等による死亡の大きな原因:アジア人100万人追跡調査
- 参考文献7:ニコチン入り電子タバコはニコチン置換療法よりも禁煙率が高かった
- 参考文献6:日本人のがんによる死亡の原因の24.1%がタバコである
- 参考文献5:喫煙で気管支の細胞における遺伝子変異の数が増加する
- 参考文献4:肺腺がんリスクは受動喫煙で増加する:日本人非喫煙女性の追跡研究
- 参考文献3:加齢による食道粘膜上皮の遺伝子変異は、大量喫煙・飲酒で更に増加する
- 参考文献2:がんと診断された後の禁煙の臨床的な意義を再考せよ
- 参考文献1:肺癌患者におけるCOVID-19感染で、喫煙量が多いと死亡率が高まる