喫煙のがんを始めとする健康に関する情報(参考文献の紹介)
日本癌学会喫煙対策委員会では、新型たばこを含め、喫煙とがんを始めとする健康にまつわる国内外の様々な研究結果について、注目すべき参考文献を定期的に1~2編ずつ紹介していく取り組みを始めました。ここに紹介する研究論文は、がん予防・がん医療に対するインパクトの強さ、社会的インパクトをはじめ、最新の健康・医療にまつわるトピックスなども参考に選択しています。
【参考文献29】喫煙はDNAのメチル化を通じてがんをはじめとする様々な病気のリスクを上げる
タイトル:Epigenetic Signatures of Cigarette Smoking
著 者:Roby Joehanes, Allan C. Just, Riccardo E. Marioni, et al.
雑誌名:Circulation: Cardiovascular Genetics. 2016;9:436–447
リンク:https://www.ahajournals.org/doi/10.1161/CIRCGENETICS.116.001506
【文献の紹介文】
DNAメチル化は、遺伝子の活性を調節する生物学的プロセスです。この現象では、DNAの特定の部位にメチル基(小さな化学基)が付加され、その遺伝子の活動が抑制されることがあります。これにより、細胞がどの遺伝子を「オン」または「オフ」にするかを制御し、細胞の種類や機能、成長や発達、さらには病気のリスクに影響を与えます。この論文では、タバコの吸引がDNAメチル化に与える広範な影響について研究されています。特に、がんに関連する部分として、DNAメチル化の変化がタバコの吸引による健康リスク、特にがんを含む様々な疾患のリスクにどのように寄与するかが調査されています。研究結果によると、タバコを吸うことは多くの遺伝子のメチル化パターンに影響を及ぼし、これが様々な病気のリスク上昇と関連していることが示唆されています。特に、長期にわたる喫煙はメチル化の変化を固定化し、喫煙をやめた後もその影響が持続することが明らかにされました。
【紹介者コメント】
血液のDNAメチル化が喫煙により起きている事を示す論文です。喫煙は実際にタバコの煙が入る肺に影響を与えるイメージがあるかも知れませんが、実際には全身を回る血液にもメチル化という形で影響を与えている事がこの研究で示されています。またこの研究ではDNAメチル化が、がん以外の様々な病気にも関連を示している事が示されています。DNAメチル化からタバコの体へのダメージの度合いを見る事が出来るようになるかも知れません。
担当委員:松尾 恵太郎 (愛知県がんセンター研究所 がん予防研究分野)
過去の参考文献
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- 参考文献22
- 参考文献21
- 参考文献20
- 参考文献19
- 参考文献18:肺がん罹患後の禁煙による生存率改善は、禁煙のがん進行抑制効果による
- 参考文献17:喫煙はがん以外にも多くの疾患のリスクと関連している
- 参考文献16:日本における喫煙による年間死亡者数は女性37,000人、男性162,000人
- 参考文献15:喫煙により頭頸部がんのリスクは10倍に上がる
- 参考文献14:少量の喫煙でも頭頸部がんのリスクは上昇する
- 参考文献13:加熱式たばこの利用により血液細胞のDNAのメチル化パターンが変わる
- 参考文献12:喫煙は死亡率を高め、禁煙はそのリスクを下げる:英国医師の追跡調査
- 参考文献11:がん診断前後に禁煙した人は、継続喫煙した人よりも二回目のがん罹患リスクが低い
- 参考文献10
2022年2月にCancer Scienceに掲載されたJCA会員に実施した喫煙状況調査に関するレポート - 参考文献9:加熱式たばこ、紙巻きタバコを両方吸う人は、呼吸機能の低下が多い
- 参考文献8:喫煙はがん、呼吸器疾患等による死亡の大きな原因:アジア人100万人追跡調査
- 参考文献7:ニコチン入り電子タバコはニコチン置換療法よりも禁煙率が高かった
- 参考文献6:日本人のがんによる死亡の原因の24.1%がタバコである
- 参考文献5:喫煙で気管支の細胞における遺伝子変異の数が増加する
- 参考文献4:肺腺がんリスクは受動喫煙で増加する:日本人非喫煙女性の追跡研究
- 参考文献3:加齢による食道粘膜上皮の遺伝子変異は、大量喫煙・飲酒で更に増加する
- 参考文献2:がんと診断された後の禁煙の臨床的な意義を再考せよ
- 参考文献1:肺癌患者におけるCOVID-19感染で、喫煙量が多いと死亡率が高まる