喫煙のがんを始めとする健康に関する情報(参考文献の紹介)
日本癌学会喫煙対策委員会では、新型たばこを含め、喫煙とがんを始めとする健康にまつわる国内外の様々な研究結果について、注目すべき参考文献を定期的に1~2編ずつ紹介していく取り組みを始めました。ここに紹介する研究論文は、がん予防・がん医療に対するインパクトの強さ、社会的インパクトをはじめ、最新の健康・医療にまつわるトピックスなども参考に選択しています。
【参考文献31】禁煙が早ければ 肺癌の生存期間が延長
タイトル:Prediagnosis Smoking Cessation and Overall Survival Among Patients With Non-Small Cell Lung Cancer
著 者:Xinan Wang, Christopher W Romero-Gutierrez, Jui Kothari, Andrea Shafer, Yi Li, David C Christiani
雑誌名:JAMA Netw Open. 2023 May 1-6 (5):e2311966
リンク:https://jamanetwork.com/journals/jamanetworkopen/fullarticle/2804556
【文献の紹介文】
○肺癌は依然として世界の癌関連死亡の主要な原因となっている。
○非小細胞肺癌は肺癌症例全体の 85% を占め、喫煙はそのリスクと最も大きく関連の深い要因となっている。
○しかし診断前の禁煙からの年数や累積喫煙と、肺癌診断後の全生存期間との関連についてはほとんど分かっていない。
○肺癌サバイバーコホートから非小細胞肺癌患者の診断前の禁煙からの年数、累積喫煙パック・年と全生存の関連性を特徴付けることを目的とした。
○このコホート研究には1992年~2022年の間にマサチューセッツ総合病院のボストン肺癌生存コホートに登録された非小細胞肺癌症例が含まれた。
○患者の喫煙歴とベースラインの臨床病理学的特徴は、アンケートを通じて前向きに収集され、肺癌診断後の全生存は定期的に更新された。
○肺癌診断前の喫煙期間をExposureとし、主要評価項目は詳細な喫煙歴と肺癌診断後の全生存との関係とした。
○非小細胞肺癌症例5594人で
-平均年齢 65.6歳
-男性 2987人 [53.4%]
-795人 (14.2%) 非喫煙者
-3308人 (59.1%) 元喫煙者
-1491人 (26.7%) 現喫煙者
○Cox回帰分析では、非喫煙者と比べた死亡率は
-元喫煙者で26%高く (ハザード比 1.26、p<0.001)
-現喫煙者で68%高い (ハザード比 1.68、p<0.001)
○肺癌診断前の禁煙からの年数は、喫煙経験者の死亡率の有意な低下と関連していた (ハザード比 0.96、p=0.003) 。
○診断時の臨床病期で層別化すると、病気が早期の症例では、喫煙経験者で全生存がさらに短いことが明らかだった。
○早期の禁煙は、肺癌診断後の死亡率の低下と関連し、喫煙歴と全生存の関係は診断時の臨床病期で異なる可能性がある。
○肺癌診断後の喫煙歴に関連する治療レジメンと有効性が異なる可能性が示唆された。
○肺癌の予後や治療法の選択を改善するため、詳細な喫煙歴の聴取は重要となる。
【紹介者コメント】
喫煙が肺癌発症の重要な原因であることは誰でも知っているが、予後との関連はあまり知られていない。本研究をみると、特に早期肺癌の症例では喫煙が予後に大きく関係していることがよくわかる。癌診療に携わる医師として禁煙を勧めることは大切だが、COPDなどでまだ肺癌発症に至っていない症例では、より強く禁煙して頂くよう心がけ、実臨床でも働きかけることが重要である。
担当委員:田中 希宇人 (日本鋼管病院 呼吸器内科)
過去の参考文献
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- 参考文献22
- 参考文献21
- 参考文献20
- 参考文献19
- 参考文献18:肺がん罹患後の禁煙による生存率改善は、禁煙のがん進行抑制効果による
- 参考文献17:喫煙はがん以外にも多くの疾患のリスクと関連している
- 参考文献16:日本における喫煙による年間死亡者数は女性37,000人、男性162,000人
- 参考文献15:喫煙により頭頸部がんのリスクは10倍に上がる
- 参考文献14:少量の喫煙でも頭頸部がんのリスクは上昇する
- 参考文献13:加熱式たばこの利用により血液細胞のDNAのメチル化パターンが変わる
- 参考文献12:喫煙は死亡率を高め、禁煙はそのリスクを下げる:英国医師の追跡調査
- 参考文献11:がん診断前後に禁煙した人は、継続喫煙した人よりも二回目のがん罹患リスクが低い
- 参考文献10
2022年2月にCancer Scienceに掲載されたJCA会員に実施した喫煙状況調査に関するレポート - 参考文献9:加熱式たばこ、紙巻きタバコを両方吸う人は、呼吸機能の低下が多い
- 参考文献8:喫煙はがん、呼吸器疾患等による死亡の大きな原因:アジア人100万人追跡調査
- 参考文献7:ニコチン入り電子タバコはニコチン置換療法よりも禁煙率が高かった
- 参考文献6:日本人のがんによる死亡の原因の24.1%がタバコである
- 参考文献5:喫煙で気管支の細胞における遺伝子変異の数が増加する
- 参考文献4:肺腺がんリスクは受動喫煙で増加する:日本人非喫煙女性の追跡研究
- 参考文献3:加齢による食道粘膜上皮の遺伝子変異は、大量喫煙・飲酒で更に増加する
- 参考文献2:がんと診断された後の禁煙の臨床的な意義を再考せよ
- 参考文献1:肺癌患者におけるCOVID-19感染で、喫煙量が多いと死亡率が高まる